研究課題/領域番号 |
20K09915
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分57020:病態系口腔科学関連
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研究機関 | 福岡歯科大学 |
研究代表者 |
日高 真純 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 教授 (80238310)
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研究分担者 |
藤兼 亮輔 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 講師 (20581713)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2020年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | DNA損傷応答 / 細胞周期チェックポイント / アポトーシス / ATR/CHK1 / 化学療法剤 / 多能性幹細胞 / 細胞死 / ストレス超感受性 / ゲノム安定化 |
研究開始時の研究の概要 |
多くの抗がん剤はDNAに損傷を与えるが、応答するしくみは細胞の種類によって異なっている。がん細胞やそれが由来する体細胞はDNA損傷に応答して傷の修復を試みるが、修復がうまくいかない場合は突然変異や染色体異常を伴う。一方、多能性幹細胞はDNA損傷に対して高度に感受性で、修復することはせずに優先的に細胞死を選択することで高度なゲノム恒常性を維持している。しかし、その詳細な分子機構は未だ明らかになっていない。本研究では、ヒトiPS細胞とがん細胞におけるDNA損傷応答の違いを検証しつつ、ヒトiPS細胞のストレス超感受性に関わる因子を網羅的に探索することで、高度なゲノム恒常性維持機構の解明をめざす。
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研究実績の概要 |
多くの抗がん剤はDNAを損傷し、増殖の盛んな細胞に対して複製ストレスを与えるが、応答するしくみは細胞の種類によって異なっている。がん細胞やそれが由来する体細胞はDNA損傷に応答して細胞周期を停止し傷の修復を試みるが、修復がうまくいかない場合は突然変異や染色体異常を伴う。一方、多能性幹細胞はDNA損傷に対して高度に感受性で、僅かなストレスを受けた場合でも修復することはせずに優先的に細胞死を選択することで高度なゲノム恒常性を維持している。そこで本研究は、細胞がストレスに応答して生死を決定する分子メカニズムを明らかにすることで、多能性幹細胞が有する高度なゲノム恒常性維持機構の解明と低濃度で作用する新たな抗がん療法の開発に向けた分子基盤の確立を目的に計画されたものである。 申請者はこれまでにDNA損傷が引き起こす細胞死誘導において、クロマチン動態と損傷応答シグナリングのトランスアクションが重要であるとの知見を得てきた。そこで令和4年度は、複製ストレス応答への関連が報告されているFANCD2のチェックポイント活性化ならびに化学療法剤感受性に及ぼす影響についての解析を行った。その結果、FANCD2遺伝子のノックアウトにより抗がん剤に対する感受性が亢進することを明らかにした。この時、ATR/CHK1シグナリングの活性化には顕著な変化は確認できなかった。この結果は、複製ストレス応答時のFANCD2の機能不全は細胞死を優先的に選択する要因となり得ることを強く示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者はヒトiPS細胞において、DNA損傷後もチェックポイントキナーゼATR/CHK1はリン酸化されず、高感度に細胞死が誘導されることを検証してきた。このことは、Guptaらの最近の報告(Gupta et al., PNAS, 2018)とよく一致する。 そこで令和4年度にはヒトiPS細胞とヒトがん細胞のDNA損傷応答機構を比較することを目的して、ヒト子宮頸癌由来細胞株HeLaを実験材料に用いて、複製ストレス応答への関連が報告されているFANCD2のアルキル化抗がん剤感受性に及ぼす影響についての解析を行った。その結果、構築したFANCD2遺伝子のノックアウト細胞ではアルキル化剤MNUに対する感受性が顕著に亢進することが明らかとなった。その条件下でDNA損傷の蓄積をγH2AXのシグナルを指標に検証したところ、FANCD2遺伝子ノックアウト細胞においては、クロマチン上のγH2AX のレベルが増加していることが明らかとなった。 以上の結果は、FANCD2の機能が細胞のストレス応答時の生死決定メカニズムと密接に関連していることを強く示しており、現在までの進捗状況は概ね順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
多能性幹細胞であるヒトiPS細胞とこれまで細胞死誘導研究に利用してきたヒトがん由来培養細胞との比較を行いながら、以下の実験に取り組む。 (1)がん培養細胞との比較によるヒトiPS細胞におけるチェックポイント活性化回避の検証 ATR/CHK1経路の活性化回避が細胞のストレス応答時の生死決定メカニズムと密接に関連していることを見出したので、活性化回避に伴いDNA修復が抑制されていることを検証するために、核内でのDNA損傷の蓄積をγH2AX, RPA, 53BP1等の核内でのフォーカス形成を指標に解析する。さらに、その時のクロマチン動態についてもヒストンの修飾等を指標に解析を行う。 (2)ストレス超感受性に関連するタンパク質の網羅的な同定 iPS細胞を用いて遺伝子ノックダウン細胞ライブラリーあるいは遺伝子ノックアウト細胞ライブラリーを構築し、その中から抗がん剤処理後にCHK1のリン酸化を誘導し薬剤耐性を獲得した細胞のスクリーニングを継続して行う。その変異遺伝子を次世代シークエンサーによるバーコード解析にてチェックポイント回避関連遺伝子として同定する。それと同時に、これまでにヒトがん由来培養細胞でのDNA損傷応答への関与を明らかにしたTopBP1, BLM, WRN, FANCD2のストレス超感受性への関与をさらに解析する。
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