研究課題
基盤研究(C)
生活習慣病の1つである動脈硬化症の主要な原因物質である低密度リポタンパク質(LDL)の変動は生体の恒常性維持に重要である。LDL受容体シグナル伝達が免疫応答にも影響を及ぼすこも知られているが,骨組織や特に歯に対する詳細な影響はまだ不明である。本研究ではマウスに高脂肪食(脂質成分量を数種類に調整)を摂餌し脂質異常症を発症させ,骨および歯の恒常性維持に関する影響を解析する。LDL受容体欠損による脂質代謝不全マウスやステロイド長期投与によって骨粗鬆症の発症と同時に脂質増加を呈するマウスモデル等を用いて,脂質が及ぼす骨および歯という硬組織変化の発症のメカニズムについてその機能を解析する。
脂質異常症は,血液中の中性脂肪やコレステロールが高値である状態であり,LDLコレステロールは肝臓で作られたコレステロールを全身へ運ぶ役割を担っている。これまでに我々は,高脂肪食によりマウスの歯髄が狭窄することを発見した.しかし,食事に含まれる脂質とコレステロールのバランスと骨代謝の関係を示唆した報告はこれまでない。本研究は,餌に含まれる脂質とコレステロールの配合比が歯と骨の恒常性維持に与える影響について検討した。8週齢雄性マウス(C57BL/6J)に脂質量(14, 36%)とコレステロール量(0.01, 1.25, 5%)の異なる5種類の餌を与える実験群を設定した。各餌を12週間与え,安楽死後,血液採取と大腿骨頸骨、頭部を摘出し,血清脂質マーカーの測定,μCTおよび組織学的観察による骨形態計測を行った。また,各実験群のマウスの骨髄細胞から破骨細胞分化誘導培養を行い,qPCR法を用いて破骨細胞分化マーカーを解析した.脂質(36%)+コレステロール(0%)餌群は標準餌(脂質5.4%+コレステロール0%)群と比較して,血糖値は高値だったが,μCT解析から大腿骨骨量(BV/TV %),骨密度(BMD)に変化はなかった。脂質(14%)+コレステロール(1.25および5%)餌群も同様に変化はなかった。しかし,脂質(36%)+コレステロール(1.25%)餌群では,標準餌と比べ血糖値は正常値だが,総コレステロールとLDL値が高値を呈し,さらに骨量と骨密度は有意な低下を認めた。一方,培養破骨細胞では,餌の種類による分化活性に有意な差は見られなかった.本研究により,脂質とコレステロールがともに相当量含まれる場合,骨の恒常性維持の破綻を引き起こすことが示された。これは障害者の食事摂取の偏りが硬組織にも影響を及ぼす可能性があることが示唆された。
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