研究課題
基盤研究(C)
慢性咀嚼筋痛は口腔顔面領域で最も頻度の高い非歯原性(歯や歯周組織に原因がない)疼痛であり、しばしば食事、呼吸、会話といった日常生活に不可欠な活動を制限するにもかかわらず、現在も有効な治療法が存在しない。このような状況は、慢性咀嚼筋痛の発症機序に関する知見(特に中枢神経系に関する知見)が未だ不十分であることに一因があると考えている。そこで、本研究では、慢性咀嚼筋痛の発症過程での中枢神経系の機能的変化(神経の過敏化)の機序を解明らかにすることで、慢性咀嚼筋痛治療につながる基礎的な知見を得ることを目指す。
昨年度に続き、今年度は、アストロサイト活性化抑制剤(DL-フルオロクエン酸バリウム塩)投与による慢性痛の発症過程におけるアストロサイトの関与の探索を行った。。DL-フルオロクエン酸バリウム塩は0.1625mg/mlに人工脊髄液で調整し、頚部髄腔内投与法で実験動物(雄性 Sprauge-Dawleyラット)に投与した。この結果、アストロサイト活性抑制剤の投与を急性痛発症期(発痛物質(3%カラゲナン)投与の同日)に行うと、慢性咀嚼筋痛の発症が抑制されることが確認された。また、アストロサイト活性化抑制剤を慢性痛発症期(カラゲナンの咬筋内投与2週間後)に行った場合は、慢性咀嚼筋痛の発症は抑制されなかった。これまでの結果から、カラゲナン誘発性ラット慢性咀嚼筋痛モデルの慢性痛発症には、急性痛期でのマイクログリアとアストログリアの活性が関与していることが、予測された。次に、マイクログリアとアストロサイトの活性化には、炎症の発症が関与していると予想して、抗炎症作用のある鎮痛薬(非ステロイド性消炎鎮痛剤)の投与で慢性咀嚼筋痛の発症が抑制されるか否かを確認した。鎮痛薬にはメロキシカム(メタカム2%注射液)を使用し、投与は短時間のイソフルラン麻酔下で発痛物質(3%カラゲナン)投与の同日に2mg/kgの皮下注射で行った。この結果、「消炎鎮痛剤の投与を急性痛発症期に行うと、急性痛の発症を完全に抑制することはできなかったが、慢性咀嚼筋痛の発症が抑制されることが確認された。これらのことから、慢性咀嚼筋痛の発症には、急性痛時の炎症メディエーター放出によるグリア細胞の活性化が起因となっていることを予測している。
4: 遅れている
コロナ禍が始まった年からの研究開始であったため、研究開始時期が遅れたうえに、研究に必要な薬品や消耗品が手に入りにくくなった時期があったことや、研究途中での電子痛覚測定装置の故障の修理に時間がかかったことが影響した。
コロナ禍の影響により、研究ができない期間があったため、研究期間の延長を申請した。今後は、急性痛時の炎症メディエーター放出によるグリア細胞の活性化が起因となっていることを確認するため、抗炎症作用のない鎮痛薬(アセトアミノフェン)の投与により慢性咀嚼筋痛の発症が起こるか否かを確認する。また、組織標本によるマイクログリアとアストロサイトの活性化を確認することで、現在の予測が正しいかどうかを確認する予定である。
すべて 2022 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件)
Neuroscience Letters
巻: 771 ページ: 136467-136467
10.1016/j.neulet.2022.136467
Journal of Oral Pathology & Medicine
巻: 49 号: 6 ページ: 547-554
10.1111/jop.13072