研究課題
基盤研究(C)
慢性咀嚼筋痛は口腔顔面領域で最も頻度の高い非歯原性(歯や歯周組織に原因がない)疼痛であり、しばしば食事、呼吸、会話といった日常生活に不可欠な活動を制限するにもかかわらず、現在も有効な治療法が存在しない。このような状況は、慢性咀嚼筋痛の発症機序に関する知見(特に中枢神経系に関する知見)が未だ不十分であることに一因があると考えている。そこで、本研究では、慢性咀嚼筋痛の発症過程での中枢神経系の機能的変化(神経の過敏化)の機序を解明らかにすることで、慢性咀嚼筋痛治療につながる基礎的な知見を得ることを目指す。
昨年までの研究結果から、慢性咀嚼筋痛の発症には、急性痛時の炎症メディエーター放出によるグリア細胞の活性化が起因となっていることが予測できたことから、抗炎症作用が小さい鎮痛薬の投与で慢性咀嚼筋痛の発症が抑制されるか否かを確認した。抗炎症作用が小さい鎮痛薬には、アセトアミノフェン(アセリオ静注液)を使用し、投与は短時間のイソフルラン麻酔下で発痛物質(3%カラゲナン)投与の同日に200mg/kgの腹腔内注射で行った。この結果、急性痛時に抗炎症作用が小さい鎮痛薬の投与を行っても慢性咀嚼筋痛の発症が抑制されないことが確認された。これまでに得られている、「抗炎症作用のある鎮痛薬(非ステロイド性消炎鎮痛剤:メタカム2%注射液)を急性痛時に投与すると慢性咀嚼筋痛の発症が抑制される」という知見と考え合わせると、慢性咀嚼筋痛の発症には、急性痛時の炎症メディエーター放出によるグリア細胞の活性化が起因となっていると考えられる。また、今後この仮説をさらに確実なものにするために、現在、抗炎症作用が小さい鎮痛薬(アセトアミノフェン)と抗炎症薬(ステロイド)を急性痛時に同時に投与した場合の慢性痛の発症状況がどうなるかを検討中である。これまでに得られた知見の一部は、2024年3月に米国で開催されたIADR/AADOCR/CADR General Sessionで発表した。また、2024年4月に大阪で開催されるOral Neuroscience 2023でも研究内容の紹介を予定している。
3: やや遅れている
コロナ感染が広まった年からの研究開始であったため、研究開始時期が遅れたうえに、研究に必要な薬品や消耗品が手に入りにくくなった時期があったこと。また、研究途中での電子痛覚測定装置の故障の修理に時間がかかったことの影響が継続している。このため、この度も研究期間の延長を申請した。
今後は、抗炎症作用が小さい鎮痛薬(アセトアミノフェン)と抗炎症薬(ステロイド)を急性痛時に同時に投与した場合の慢性痛の発症状況がどうなるかを検討をすすめ、さらに組織標本によるマイクログリアの活性化を確認することで、現在予想している仮説が正しいかどうかを確認する予定である。
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Neuroscience Letters
巻: 771 ページ: 136467-136467
10.1016/j.neulet.2022.136467
Journal of Oral Pathology & Medicine
巻: 49 号: 6 ページ: 547-554
10.1111/jop.13072