研究課題
基盤研究(C)
我々は、科学的知見に基づくヒトノロウイルスの感染症対策に役立てるために、全国の20の小児科医と協力して国内で流行したヒトノロウイルスの全ゲノム情報の収集と解析の実施を試みる。解析情報には、流行株の性質を規定する全ゲノムの配列情報に加えて、流行株の遺伝的特徴、蛋白質の構造と機能の特徴、自然界での経時変化の特徴などが含まれる。日本で流行するヒトノロウイルス全長ゲノムを包括的に解析し、流行株の(1)種類、分布、動態、(2)特異的変異、(3) 蛋白質構造の特徴、(4)流行の発生機序、(5)遺伝子型と病原性についての関連性を明らかにする。
2012年11月から2014年06月に、国内で検出され、公共のデータベース(NCBI)に登録した48配列、および、参考配列として、2配列、合計50配列のGroup II Type 4(GII.4)Sydney 2012株を対象とした。ウイルスRNAを出発材料とし、塩基配列を解析後、ウイルスの進化系統の解析のため、Beauti and Beastソフトウェアを用いて、ベイズ法による起源推定系統樹解析を行った。また、感染者数の動態を推測するために、population dynamics解析を実施した。GII.4 Sydney 2012株は、(i)2011年7月ごろ出現し、その後、国内には2012年7月~9月ごろ持ち込まれた可能性が示唆された。(ii)2013年2~4月ごろ、2つのグループ(Aグループ、Bグループ)に分岐し、Aグループが主要なグループとなり、存在していることが示唆された。2014年2~4月ごろ、更に、Aグループが2つのグループ(Cグループ、Dグループ)に分岐し、国内では、二つのグループが並存していた。(iii)population dynamics解析では、2015年、さらに、2017年初め、感染者数が減少している可能性が示された。GII.4 Sydney 2012株は、変異を蓄積し、分岐を繰り返しながら、ヒト集団で存続していることが示唆された。GII.4 Sydney 2012株の4種類のグループのうち、なぜ、Bグループが消失したのか不明である。今後、全長ゲノムの比較をすることで、ヒト集団に存続できる配列上の特徴を抽出できる可能性がある。population dynamics解析では、2015年、2017年と感染者数が減少が推測される時期があったが、2015年は食中毒事例を中心にGII.17、2016年末~2017年初めにかけ、小児を中心にGII.2が流行していたため、GII.4 Sydney 2012株による感染者が減少していた可能性が示された。
3: やや遅れている
新型コロナウイルス感染症流行に伴うソーシャルディスタンス、手洗いの励行、咳エチケットなどの「行動変容」のため、小児科における感染性胃腸炎の報告数が非常に少ない状況で推移しており、例年と異なる発生パターンを示している。大阪府では、過去5年間(2017年から2021年)の発生動向を比較すると、2022/2023秋冬季シーズンは少ない報告数で推移した。2022年年始は、2021年後半からサポウイルスによる報告数の増加は見られたため、例年よりも定点あたり報告数は高かったが、ノロウイルスによる感染性胃腸炎は少なかった。さらに、新型コロナウイルス オミクロン株による第6波のため「行動変容」で、小児科における感染性胃腸炎(ノロウイルス)の報告数が減少した。そのため、感染性胃腸炎の検体がなく、直近の検体の解析が困難であった。
次年度は、(I)2023年05月08日より、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の取り扱いが変更になり、「行動緩和」しつつあり、感染症の報告数は、コロナ禍前の状況に戻ると見込まれる。ポストコロナになるため、大阪における感染性胃腸炎の発生動向について、監視・調査する。(II)新型コロナウイルス国内で3箇所ある医療機関より、感染性胃腸炎の検体搬入を予定している。糞便試料を出発材料とし、次世代シークエンサーを用いて、ノロウイルスの全長ゲノムゲノム解析を実施し、過去の流行株と比較して、ゲノム上の特徴を抽出する。同時に、遺伝子型別の臨床症状や血清生化学検査データを収集する予定である。
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すべて 雑誌論文 (14件) (うち国際共著 1件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 6件)
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