研究課題/領域番号 |
20K11134
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分58080:高齢者看護学および地域看護学関連
|
研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
渡邉 賢治 自治医科大学, 看護学部, 講師 (50733622)
|
研究分担者 |
春山 早苗 自治医科大学, 看護学部, 教授 (00269325)
鹿野 浩子 自治医科大学, 看護学部, 講師 (50806271)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
|
キーワード | 筋萎縮性側索硬化症 / control / モデル / システム / 看護 / 応答 / 交渉 |
研究開始時の研究の概要 |
コントロールの感覚とは、他者や環境といった周囲との相互作用のなかで規定される自己概念の一部である。人間はコントロール感覚をより拡大する志向性をもっているが、周囲との相互作用においてこれを確認できない場合に憎悪や喪失を経験する。しかし、コントロール感覚を喪失する状況にあっても自ら再び拡大を図る肯定的な意味づけができる存在でもある。Health Locus of Control尺度は、Loss of controlを乗り越える人々が次第に医療者を頼らなくなる傾向を明らかにしてきた。本研究では、ALSの人々の傾向を本尺度を用いて測定し「応答する看護」がもたらす影響と看護実践の内容を明らかにする。
|
研究実績の概要 |
筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者は、急速に進行する生命・生活障害に直面しながらも、そのコントロールを試み続けている。先行研究では、ALSに伴う障害の改善を目指す看護実践が報告されているが、患者にとって、障害の改善と障害のコントロールは異なる経験である。生命・生活障害をコントロールする患者の試みを代償する実践とは別に、患者のコントロールの試み(コントロールシステム)そのものを支える看護実践のモデル化が必要である。 【研究目的】本年度は、ALS患者のコントロールシステムの維持・回復を支える看護実践の収集を目的とする。 【研究方法】まず、パイロットテストを通じて調査方法上の課題を抽出し、修正した研究計画を倫理審査委員会に諮った。ALS患者と患者を担当する訪問看護師(以下、看護師)のペアを研究対象者とし、3ヵ月の調査期間中に1回/月の頻度で同行訪問を行い、実践場面の参加観察と非公式面接を実施した。また、実践上の工夫や根拠となるアセスメント内容を収集する半構成的面接、および調査前後における患者のコントロールシステムの維持・回復の程度を把握するための日本版Health Locus of Control尺度得点を収集することを計画した。 【研究の成果】パイロットテストにより、看護師に実践上の工夫やその背景にあるアセスメント内容を想起させる方法上の課題が抽出された。倫理審査委員会より修正した研究計画書の承認を得て、6組の看護師-ALS患者のペアを対象とした調査を開始した。侵襲的人工呼吸器を使用するALS患者へのデータ収集は、眼球の動きや視線入力装置、看護師や家族の助言を介して行った。非公式面接のデータから、身体的・社会的に会話が困難なALS患者に対して、看護師が、患者の言い淀みや表情の違い、患者がおかれた家庭内の立場から患者のサインをアセスメントし、実践を工夫する根拠としていることがうかがえた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Covid-19の影響により、本研究は調査開始に至る過程に遅れがあった。しかし、感染対策上の制限が緩和され、研究対象候補者との接触や、研究者間の議論の機会が十分に確保できたことで、本年度は予定通りにパイロットテストの実施、倫理審査委員会からの承認、調査の開始へと進めることができた。研究対象者であるALS患者、および看護師への追加の倫理的配慮を必要とする事象は生じておらず、調査は計画通り順調に進行していると評価する。現在の進捗状況であれば、次年度の前期にはデータ収集が完了し、年度内にはデータ分析結果と考察をふまえた結論の報告が可能になると考える。 また、本年度は、先行知見のメタ統合からALS患者に特徴的な3つのコントロールシステムを明らかにした研究成果を原著として発表できた。本研究の研究スキームであるPerceptual Control Theory(Powers, 1973)に依拠したALS患者のコントロールシステムを発表できたことは、看護実践モデルの有用性を広く議論する土台を整えた点で研究遂行上の大きな意義があったと考える。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度、研究活動を推進できた大きな要因の一つに、研究対象者との接触や、共同研究者間の議論の機会を十分に確保できた点があげられる。Perceptual Control Theoryに基づく階層的な対象理解や、複合的な看護師-患者関係の理解のためには、偏った価値観によるデータの読み込みや分析を回避する必要がある。データ収集内容の共有や分析結果の議論の機会を計画的に設けることを一つ目の方策とする。 次に、学術集会での発表や情報収集を計画的に実施することを方策とする。Covid-19の感染対策上の制限が緩和され、多くの学術集会は対面開催を再開した。研究成果の発表を通じてより多様な学問的背景を有す研究者と議論することが、研究者自身の価値観の偏りに自覚的になる機会になる。また、新たな考察の視点を発見する機会となる可能性もあり、研究成果の洞察を深める方策として計画したい。 最後に、研究データの信憑性を高める方策について述べる。本研究の特性上、実践上の工夫やアセスメントの分析に、看護実践を行った対象者自身が関与する機会が限られている。実践場面の解釈が対象者の経験内容と過度に乖離しないよう、データ分析結果を対象者(看護師)と確認する機会を設けることを3つ目の方策とする。
|