研究課題
基盤研究(C)
本研究では動作の記憶が大脳半球間を転移する作用機序の解明のため、研究計画の前半ではラットの前肢に対応する運動野から反対側の運動野に投射するIT型神経細胞を同定する。その神経細胞を破壊した場合に両手間転移への影響を明らかにする。研究計画の後半では脳卒中動物を用いて、健側前肢による動作の学習が障害前肢の再学習(回復訓練)に与える影響、障害前肢の原学習が健側前肢の学習(代償訓練)に与える影響を明らかにする。本研究では両手間転移に関わる神経回路基盤を明らかにし、転移が起こるタイミングとその機構を解明し、新しいリハビリテーション法の開発を目指す。
手の動作に関する学習は利き手依存であり、それらの動作学習は対応する運動野に記憶されると考えられている。これらの記憶は非利き手にも影響を与えることが分かっており、このことを両手間転移と呼んでいる。本研究では両手間転移を担う神経回路の解明と、運動障害時の機能回復に関する基礎的な成果を目指して進めている。令和4年度ではこれまでにレバーの移動軌跡などの測定データを用いて、両手間転移に関する研究を進めた。反応時間や加速度などのパラメータの計算、また、試行間隔や試行内・試行間でのレバー押し回数の測定、などのデータを解析した。薬剤投与(GABAアゴニスト(ムシモール)の局所注入)実験を継続し、原学習時に学習前肢とは反対の前肢(非学習前肢)に対応する運動野の影響を調べた。また、ローズベンガルを用いたPhotothrombosis法による脳梗塞モデル動物の作製を検討した。学習の両手間転移は学習量に依存すると考えられるが、これに関しての詳細な知見はなかった。今回、我々は学習量の異なる群で比較実験を行い、転移後の軌跡データをもとに原学習の学習量と転移後の運動の遂行に関して解析を行った。動作への反応時間だけではなく、動物が押すレバーの移動軌跡や速度は学習によって大きく変化し、学習量に依存してスムーズに、素早くなることが分かった。これらと同様の解析手法を用いて、GABAアゴニストを用いた両手間転移実験、脳梗塞モデル動物の両手間転移実験を進めている。遺伝子導入に関しては経路特異的に発現させるシステムを検討し、遺伝子導入の特異性などを検討した。
2: おおむね順調に進展している
頭部拘束型オペラント実験装置(小原医科産業)を用いて、片方の手でレバー押しの動作を学習させ(原学習)、その後にもう一方の手でレバー押しをさせ(再学習)、学習の転移に関わる神経回路網の研究に取り組んだ。令和3年度は動作の詳細な動きを測定するために記録を行うシステムに変更を加えた。レバーは動物が触っていないニュートラルポジションを基準に、押し切った状態と引き切った状態の間を自由に動かすことができ、システムの変更によりその軌跡を記録することが可能となった。レバーの移動した軌跡を解析することによって反応時間だけではなく、運動の円滑さ、運動の速さなどを測定し、これらの指標の変化を転移学習前後で比較した。また動物の学習量を変化させることにより、転移学習の効率が変化するかを解析した。レバー軌跡の解析の結果、レバー押し運動は原学習初期には素早く反応することができず、押す動作は何度かの失敗を経て急激に押し込む行動が多いことが分かった。これらの行動は運動を繰り返すごとに徐々に減少し、最終的には素早い、滑らかな運動をするようになった。また、レバー押しを十分に訓練した(400回成功させた)群と訓練初期(40回成功させた群)に分けて比較したところ、再学習時の運動は十分に訓練した群においてより素早い滑らかな運動をすることが分かった。訓練の程度によって転移学習が影響受けることが分かった。これらの成果は第14回日本ニューロリハビリテーション学会で報告した。令和5年度は、追加実験の検討を行い、さらなる研究成果の発表に向けて準備を進める。
令和5年度では、日本神経科学学会大会(仙台)での発表、論文の作成などをすすめる。また、必要に応じて追加実験を行い、これまでの結果をサポートできるように慎重に研究を進めていく。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
The Journal of Neuroscience
巻: 40 号: 43 ページ: 8367-8385
10.1523/jneurosci.1720-20.2020
https://www.fmu.ac.jp/home/molgenet/news-1086