研究課題
基盤研究(C)
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、およびその重症型である非アルコール性脂肪肝炎(NASH)と診断された症例で体組成計測と血清miRNAの網羅的解析を行い、体組成型別にNASH特異的に発現するmiRNA分子種を同定し、重症化予測アルゴリズムを構築する。本研究はNASH/NAFLDの中心病態を反映する体組成という栄養科学的なパラーメータを導入し、新世代型バイオマーカーのmiRNAと組み合わせる事で従来困難であった正確なNASH発症予測を目指す。
食生活習慣の欧米化で急増している非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の中から肝関連死亡率が非常に高い非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を発症する高危険群を正確に選別する簡便な診断法の開発を目標とし、健康医学や患者指導の場で広く活用されている体組成計測と新規バイオマーカーの血清マイクロRNA(miRNA)測定を組み合わせた斬新なNASH発症予測法の確立に着手しました。当施設で病理診断されたNAFLD/NASH患者50名(NASH25名、非NASH 25名)に栄養指導と共に生体電気インピーダンス法で体組成計測を行い、体脂肪と筋肉量から体組成型を分類すると同時に患者血清を採取保存しその血清マイクロRNA(miRNA)を網羅的に解析しました。miRNAの解析は約2600分子種のmiRNAを搭載したオリゴチップに、血清から精製した資料をハイブリダイゼーションした後にmiRNA解析専用スキャナーで取り込み、各miRNA分子種の発現強度を測定した。体組成計測では全症例が5つの型に分類され、各体組成型の症例の病理組織型からNASH症例と非NASH症例を区別し、NASH-非NASH間で各miRNAの発現強度を比較解析したところ、NASH症例で特異的に発現強度が変化しているmiRNA分子種を複数同定できました。更にそれらのmiRNA分子種が各体組成型においてどのように異なるか解析を試みていましたが、研究初年度(令和2年)の解析症例の約半数の保存血清において、検体量不足からmiRNA解析に必要な精製試料を確保できず、エントリーした50名の内約半数において未測定となってしまいました。そこで急遽症例集積の追加を行い統計的解析を行える検体数の集積を続け、目標の9割に到達しました。
3: やや遅れている
保存血清の検体量不足によりmiRNA網羅的解析が行えなかった症例数を補うため、症例の追加エントリーを行い、症例集積を行ってきました。非NASH群の症例は解析に必要な症例数を確保できましたが、NASH群の症例については解析に必要な症例数の8割が漸く確保できました。2020年~2021年の新型コロナウイルスの蔓延による影響で当院への新規患者紹介数が減少し、また紹介を受けた患者様においても新規研究への参加同意取得に至る症例が以前より減少しました。特にNASH症例群では肝疾患以外にも合併疾患が多く、他科の診療時間も合わせると長時間の院内滞在時間となるため研究同意取得における落ち着いた面接環境を取ることが難しい状況が続いていました。2022年以降は漸く当院の診療環境も落ち着き、症例数のエントリーが再開でき、必要症例数の8割が確保できました。当初の研究計画では体組成計測で分類した体組成型の各グループにおいてNASH―非NASH間で発現強度が有意に変化しているmiRNA分子種を同定し、体組成計測と血清miRNA解析を組み合わせたNASH予測アルゴリズム作成し、更にそのアルゴリズムを応用してNASHによる肝発がんの予測についても解析を行っている段階でしたが、上記の経過にてまだアルゴリズム完成が達成できていません。
今年度は追加でエントリーを行っている症例(NASH群)を解析に必要な症例数確保し、全ての症例においてmiRNA解析を完了させ、体組成判定と特定のmiRNA発現パターンからNAFLDの重症度(NASH発症)予測ができるアルゴリズムを完成させる予定です。しかし今年度中に目標症例数確保が出来ない場合も想定し、解析に採用する統計手法を若干変更し現在の集積症例数でも可能な手法も採用し、現段階でのNASH発症予測アルゴリズムを導き出す予定です。更に長期フォロー期間中にNASH発症前と発症後のそれぞれにおいて体組成計測データが得られていた症例において、作成したアルゴリズムを適応し、体組成計測と血清miRNA測定値からの予想が実際の病理組織結果と一致しているかを検証し、アルゴリズムの診断精度を検証します。またNASH群の中でも特に肝発がんに至った症例において特異的に発現している血清miRNAを同定し、体組成計測との組み合わせにより、NAFLD症例の中から肝発がんに至るリスクの高い症例を選別するアルゴリズム作成を目指します。
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