研究実績の概要 |
本研究の主要目的は、低線量被曝に伴うリスクの評価や予測に適した統計モデルと解析手法の開発である。特に、①影響修飾も含めた柔軟な放射線リスクモデルの構築、②未観測因子による不均一性のリスク推定への影響評価、③リスク予測への適用と妥当性の評価、にの3つの課題に焦点を当てて研究を遂行した。これら3つの課題のそれぞれについて、2023年度の研究内容と成果を以下に示す。 ①放射線関連がんリスクの経時変化(被爆時年齢や到達年齢による影響修飾)について、ノンパラメトリック平滑化手法に基づく柔軟なリスクモデルの研究を行った。提案手法の妥当性を原爆被爆者データの都市別または暦年別クロスバリデーションによって検証した結果をまとめ、学会発表を行った。 ②放射線リスク評価における未観測不均一性(フレイルティ)の影響を調べるためのモデリングの研究を行った。フレイルティのモデリングと推定を、ポアソン生存時間回帰に基づく一般化線形混合効果モデルの枠組みで行う手法とその多変量モデルへの拡張について、論文にまとめ出版(古川, 日本統計学会誌, 2023)し、学会発表(2023年日本統計学会春季集会)を行った。さらに、フレイルティモデルの総説論文を執筆した(江村&古川、計量生物学会誌, 2024年出版予定)。 ③放射線被ばくに起因する生涯リスクの計算を行うツールを統計ソフトウェアRによって開発し、パッケージ化を行った。これにより、急性被曝だけでなく低線量率被曝を含むさまざまなシナリオに対応して、最適なリスクモデルに基づいてリスク計算を行うことが可能となり、放射線被曝の健康への総合的なインパクトの正しい評価に繋がると考えられる。このツールに関する論文を執筆し、出版した(Sasaki, Furukawa et al., J of Rad Prot Res, 2023)。
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