研究課題/領域番号 |
20K11974
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分61040:ソフトコンピューティング関連
|
研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
立野 勝巳 九州工業大学, 大学院生命体工学研究科, 准教授 (00346868)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2020年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
|
キーワード | スパイキングニューラルネットワーク / 内側側頭葉 / 海馬 / 前頭前野 / 空間探索課題 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、エピソード記憶に関連する内側側頭葉と行動計画に関連する前頭前野を併せもつ神経回路モデルを移動ロボットと組み合わせて空間探索する仕組みを提案する。提案する神経回路モデルは、神経スパイクでやり取りするスパイキングニューラルネットワークとする。移動ロボットが実環境のセンサー情報を神経回路モデルに送り、神経回路シミュレーションの結果をロボットにフィードバックすることで、実時間で実空間と相互作用しながら学習できるようにする。
|
研究実績の概要 |
本研究の目的は、嗅周皮質―嗅内皮質―海馬モデルと前頭前野モデルを組み合わせたスパイキングニューラルネットワーク(SNN)を移動ロボットの頭脳とし、移動ロボットが経験した空間情報を認知地図として蓄積し、行動計画の学習に活用する仕組みを提案することである。嗅内皮質―海馬SNN、および嗅内皮質―海馬―前頭前野SNNにより、空間探索課題において報酬地点までの経路を学習する計算機シミュレーションを行った。 嗅内皮質―海馬SNNを用いた空間探索課題において、空間内のオブジェクトにより活性化するキュー細胞と場所細胞の活動を組み合わせて、経路依存場所細胞を作成した。これにより同じ地点であっても異なる順路でそこに到達した場合を区別する場所細胞が導入でき、W字迷路課題を学習できるようになった。 前頭前野SNNとしてリカレントネットワークを作成し、嗅内皮質―海馬SNNとシナプス結合した。前頭前野SNNは海馬SNNからのシナプス投射とともに、嗅内皮質SNNからのシナプス投射も受けることにし、これにより前頭前野SNNにも場所細胞様の神経活動を起こした。海馬SNNと前頭前野SNNの神経活動が協調して活動する課題として、W字迷路課題を利用した。W字迷路で報酬探索学習を行うことで、経路依存場所細胞の同期発火イベントと前頭前野SNNの同期発火イベントが同時に生じる現象を確認した。 8字迷路課題において嗅内皮質―海馬SNNを学習させると、探索経路に沿った場所細胞の再活性化であるフォワードリプレイと、逆順で活性化されるリバースリプレイを起こし、それらの組み合わせが未経験経路シーケンスとして生じることを確認した。未経験経路シーケンスを起こすニューロン特性とシナプス可塑性について検討を行った。スパイクタイミング依存性可塑性の関数として、対称型と非対称型を想定したが、いずれも未経験経路のリプレイが可能であることを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的である内側側頭葉―前頭前野のSNNを構成するには、嗅周皮質、嗅内皮質、海馬、前頭前野の各領域のSNNを構成し、それらのSNNを結合する必要がある。また、移動ロボットが経験した空間情報を認知地図として蓄積し、行動計画に活用する仕組みを提案するために、各SNNの機能として、場所の表象、新規性の検出、行動計画が必要である。これまでに嗅内皮質SNNに連続アトラクタネットワークによる格子細胞を形成し、海馬SNNには場所細胞と経路依存場所細胞を形成した。さらに、前頭前野SNNとしてリカレントネットワークを用意した。特に、海馬SNNでは、ドーパミン依存シナプス可塑性により、探索行動後にフォワードリプレイとリバースリプレイに加え、未経験経路のリプレイも生じるようになった。これらの情報は行動計画に必要な神経活動である。 複数の領域を結合することで生じる問題点も明らかになり、その一つとして、嗅内皮質―海馬SNNでは、長い距離を移動させた時に誤差が蓄積する問題が生じたが、誤差を小さくする仕組みを取り入れることで改善できた。 嗅内皮質―海馬SNNと前頭前野SNNを結合し、W字迷路課題を遂行させることで、経路依存場所細胞間のシナプス結合、前頭前野の場所細胞様の神経細胞、海馬と前頭前野のシナプス結合が増強され、結果として、海馬と前頭前野が同期する神経活動が得られるようになった。これらの点は目的を達成するために進展した内容である。 嗅内皮質―海馬―前頭前野SNNの結合ができた一方で、嗅周皮質SNNの作成が遅れており、そのため、object-in-Place associationタスクやNovel object preferenceタスクが実施できていない。このことから「やや遅れている」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
嗅内皮質―海馬―前頭前野ネットワークに加え、嗅周皮質ネットワークを作成し、見慣れたオブジェクトとそうでないオブジェクトを区別するfamiliarity discriminationができるスパイキングニューラルネットワークを作成する。最終的に、嗅周皮質―嗅内皮質―海馬―前頭前野のSNNとする。 嗅内皮質ネットワークは、ニューロンを手動で結線して連続アトラクタネットワークを構成しているため、提案するネットワークのなかでもニューロン数が多く、計算負荷が高い。ニューロン数が多い割には機能的な寄与が小さい。そこで、normative modelにすることを検討し、学習により格子細胞を獲得することで、ネットワーク規模を小さくする。また、現時点では単一の環境(部屋の大きさや形状)を想定してシミュレーションを行っているが、異なる環境にも対応できるようにする。 前頭前野ネットワークは、経路探索後に、ラットが休息した時に海馬と同期した神経活動を示すだけであるので、同期発火と非同期発火の状況に応じて、異なる行動選択を行うような仕組みを導入する。これによって、新規のオブジェクトを発見した場合に、探索行動を選択するネットワークとなるようにする。 嗅周皮質―嗅内皮質-海馬―前頭前野のSNNの作成と並行して、移動ロボットの設定を行う。特にセンサ情報をニューラルネットワーク入力するシステムと、ニューラルネットワークからの移動指令を行動に反映させるシステムを作成する。嗅周皮質―嗅内皮質-海馬―前頭前野のSNNを作成したのち、移動ロボットと接続し、ロボットの移動に伴うセンサ情報をリアルタイムに処理し、嗅周皮質―嗅内皮質-海馬―前頭前野のSNNで処理した結果がロボットの行動に反映されるようにする。 得られた成果は論文や学会で発表するようにする。
|