研究課題/領域番号 |
20K12204
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分63040:環境影響評価関連
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研究機関 | 国立水俣病総合研究センター |
研究代表者 |
原口 浩一 国立水俣病総合研究センター, その他部局等, 室長 (80500660)
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研究分担者 |
坂本 峰至 国立水俣病総合研究センター, その他部局等, 所長特任補佐 (60344420)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | バイオモニタリング / 金属水銀 / 加熱気化-原子吸光法 / 金メッキ / 水俣条約 / 金精錬 |
研究開始時の研究の概要 |
水銀に関する水俣条約が発効され、金採掘で水銀を用いた金精錬過程におけるヒトへの金属水銀蒸気(Hg0)曝露評価の重要性が注目されている。尿中水銀濃度はHg0 曝露評価の有用な指標であり、尿中水銀は腎臓で無機化された二価の水銀(Hg2+)が主体である。しかし開発途上国では尿の常温保存・常温輸送中に細菌が繁殖し易く、細菌によるHg2+の還元により、尿中のHg2+がHg0となって失われてしまうという問題がある。本課題では金ナノ粒子を使った尿中のHg2+捕集条件、および金ナノ粒子に捕集された水銀の分析条件を確立することで、尿中水銀の常温保存、常温輸送とラボでの正確な尿中水銀濃度の分析を可能にする。
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研究実績の概要 |
これまでには、1) 金ナノ粒子を使用した水銀-金アマルガム化方法の最適化、2) 水銀-金アマルガムの加熱気化条件の最適化、及び3) 水銀を使用する金メッキ作業場での環境調査を行った。 1)金(III)とシリカゲルの低温焼結によって作成した金ナノ粒子は、1分間の振とう(150 rpm)で83%の水銀(Hg2+)回収率を示したが、3分間の振とうではほぼ全量を回収した。抽出時のpHを1から10に調整したHg2+溶液の回収率は、pH5-6で最高(0.97-1.02)であったが、pH3未満の酸性領域では低下し、pH1では0.02にまで落ちた。pH酸性領域ではHg2+の溶解度が大きく、金ナノ粒子に捕集されにくいことが示された。抽出pHを適切に調整し、金ナノ粒子濃度を>40 mg/mlにすることで、職業性非曝露者レベルの水銀でもほぼ全量を回収することができた。 2)加熱気化金アマルガム法では、試料を800℃まで加熱し、発生した水銀蒸気を原子吸光計で測定する。シリカゲルの耐熱温度が800℃以下のため、温度設定が必要である。そこで、金(III)とクロマトグラフィー用シリカゲルの低温焼結によって作成した金シリカゲル粒子に水銀を吸着させた試料を用意し、昇温速度6℃/秒、到達温度610℃、加熱時間4.5分で試料中水銀の99%以上を気化させる条件を確立した。 3)ネパールの金メッキ加工施設内での環境調査により、水銀蒸気濃度が作業環境中の許容濃度を大幅に上回り、個人曝露量が緊急対応レベルに達する可能性が高いことが示された。この調査はネパール森林環境省と共同で実施しており、モニタリング手法のフィージビリティ・スタディは現地保健機関の倫理審査終了後に行う予定である。 これらの取り組みは、金ナノ粒子を利用した新たなモニタリング手法の実用性を評価し、水銀曝露のリスク評価に貢献するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では水銀と金を用いたアマルガム化方法と水銀の加熱気化条件の最適化に取り組んでいる。具体的には、高い回収率を実現するための適切なpH条件を確定し、加熱気化における原子吸光装置の昇温速度、到達温度、測定流量の最適化を行った。これにより、金被膜を持つ多孔質粒子による水銀の効率的抽出と安定化が可能となった。さらに、この粒子は金属水銀と二価の水銀に高い親和性を示し、一般的な環境水中でもイオンの干渉が少ないことが確認された。ただし、最適なpH範囲を維持するためには、塩酸または水酸化ナトリウムを使用したpH調整が引き続き必要である。安全性への配慮とともに、緩衝液を導入した簡便化を図る試みは、水銀の回収率に影響を与えたため、現段階では pH 調整を続ける必要がある。この点については引き続き改善策を試験中である。また、安定性の妥当性評価には、新型コロナウィルス収束後もヒト試料の採取手続きが厳格化したことで遅れているが、サンプリング準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の次段階ではネパールのカトマンズ市における金メッキ作業員の尿サンプルを用いた金被膜多孔質粒子によるモニタリング手法のフィージビリティ・スタディを実施する。具体的には、現地で採取された水銀-金アマルガム化水銀試料と尿サンプルを用いて、常温輸送と冷凍管理輸送の両方を経て日本国内に輸送し、輸送方法を含む分析法の頑健性を評価する。このプロセスには、ネパールの森林環境省、UNEPとの協力に加え、環境省水銀対策推進室との連携し、倫理承認も適切に取得する。さらに、一般被験者によるサンプル採取後の酸使用の安全性や、粒子の損失を避ける固液分離の操作方法にも焦点を当て、より堅牢なデータを入手する計画である。これらのデータを元に国内外の学術誌に論文として投稿予定である。
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