研究課題/領域番号 |
20K12419
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80020:観光学関連
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研究機関 | 九州産業大学 |
研究代表者 |
片瀬 葉香 九州産業大学, 地域共創学部, 准教授 (40513263)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2020年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 人新世 / ツーリズム / 地球システム / 地球温暖化 / 脱炭素社会 / ソフトツーリズム / サステナブルツーリズム / 北欧 / ヨーロッパアルプス |
研究開始時の研究の概要 |
今、「人新世」を背景としたツーリズム研究が求められている。クルッツェン他は2000年に、産業革命以後の人間活動によって地球上に「人間の痕跡」が刻まれたことを根拠に、完新世に続く地質時代として人新世という概念を提唱した。特に、人間活動が加速した20世紀半ば以降、「ジオ・フォース」としてのツーリズムは地球システムにいかに負荷を与えてきたのか、その負荷をいかに軽減すべきか。本研究では、人新世第3ステージの今、このままの状態が続けば地球上の生命が危機的な状況に陥るという「地球の限界」を認識し、地球環境への負荷を低減するツーリズムについてヨーロッパの先進的な取り組みから学び新たな発想に基づいて提案する。
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研究実績の概要 |
人新世の各ステージにおいて人間活動はいかに地球環境に負荷を与えてきたか、その負荷をいかに軽減すべきかという課題に、ツーリズムはどう関わればいいのかについて、P. J. Crutzen(クルッツェン)が今世紀初頭に人新世を提唱した意図は何かという観点から考察した。その成果は以下の通りである。①片瀬葉香(2022)「人新世におけるツーリズムの再検討」、地域共創学会誌、Vol. 9、1-13:気候温暖化などの地球環境の問題を背景に、「ジオ・フォース(geo-force)」として捉えられているツーリズムの観点から、人新世と地球システムのあり方を再検討した;②横山秀司・片瀬葉香(2022)「クルッツェンの人新世とサステナブルツーリズム」、第37回観光研究学会全国大会学術論文集、21-26:Crutzenの人新世の本質とは何か、人新世におけるサステナブルは何を意味するのかを考察した。また、人新世第3ステージ「地球システムの管理者の時代」で問題となっている気候温暖化に関し、日本のスキー場経営の実態調査(茅野市・立科町)を実施した:①茅野市のスキー観光全体の動向と将来についてヒアリング(茅野市役所);②車山高原スキー場・霧ヶ峰スキー場の視察;③「ちのDMO」の発足と背景、事業計画・内容と結果についてヒアリング(一般社団法人ちの観光まちづくり推進機構);④気候温暖化に伴うスキー場経営の実態についてヒアリング(しらかば高原株式会社);⑤立科町長の両角正芳を表敬訪問(立科町役場);⑥立科地区の観光地としての特徴と集客に関する課題と対応についてヒアリング(信州たてしな観光協会)。現地でしか得られない調査の成果として、全国的にスキー人口の減少・スキー場の経営不振などの傾向がある中、若きリーダーによる観光振興への前向きな取り組みに関する話を伺うことができ、立科地区における明るい展望があるように感じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は、第一に、人新世とツーリズムに関する論文・書籍の解読に基づいて、人新世の各ステージにおいて人間活動はいかに地球環境に負荷を与えてきたか、その負荷をいかに軽減すべきかという課題に、ツーリズムはどう関わればいいのかという問いの検討に取り組んだ。P. J. Crutzenが今世紀初頭に人新世を提唱した意図は何かという観点から考察した結果、①人新世の概念を検討する上で「地球規模の変化」、「地球システム」という視点が必要である;②気候温暖化を緩和するためには、人為起源のCO2排出量の大幅な削減に向けた組り組みが必要である;③第2ステージの大加速の一翼を担ったツーリズムのあり方を反省し、第3ステージにおいて、地球温暖化を緩和する新しいツーリズムを創造していくことが求められているとの結論に至った。さらに、Crutzenの人新世の本質とは何か、人新世におけるサステナブルは何を意味するのかを考察した結果、私たちの行動が地球温暖化に関与していることを理解し、「元の状態(business as usual)への回復」ではなく、地球システムへの負荷を抑えたツーリズムが求められていると結論付けた。第二に、人新世第3ステージで問題となっている気候温暖化に関し、日本のスキー場経営の実態調査(茅野市・立科町)を実施し、以下の諸点を確認した。①茅野市のスキー観光全体についてその動向と将来の展望;②車山高原スキー場および霧ヶ峰スキー場の現状、③茅野市の観光まちづくりにおけるDMO発足の意義と実際、④白樺高原国際スキー場における行政によるスキー場経営の実態と課題(スノーマシン〔人工降雪機〕の導入)、⑤白樺高原国際スキー場の現状(ゴンドラの運行状態、スノーマシンの配置)、⑥立科町におけるスキー場の指定管理者制度の導入の背景・決断(町長)、⑦立科地区の観光地としての特徴と集客に関する課題と対応など。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果(令和2~4年度/科研)をまとめた書籍の出版(仮題『人新世とツーリズム』、2024年3月刊行予定)に向けて作業を進める。第1部「人新世の本質」では、この書籍の作成の背景と概要を述べた後、まず、クルッツェンが「人新世」を提唱した背景およびその提案内容、3つのステージに区分される人新世時代について検討する。その上で、M. Mullerによる人新世に関するインタビューでの質問に対する答えに基づいて、クルッツェンが人新世の本質をどのように捉えているのかを明らかにする。第2部「人新世とツーリズム」では、人新世第2ステージ「大加速時代」におけるツーリズムによる地球システムへの負の影響(温室効果ガスの排出、土地利用の変化、エネルギーや水資源など)を明らかにした上で、温室効果ガス排出の増大を通じて、ツーリズムは気候温暖化にいかに関与してきたのか、気候変動はツーリズムにいかに影響を与えてきたのか、そして、今後ツーリズムは地球システムにいかに関わるべきかについて検討する。第3部「人新世時代のサステナブルツーリズム」では、ヨーロッパアルプスにおけるツーリズム開発の歴史と人新世時代との関係を検証し、人新世第2ステージにはスキー場の大規模化と人工降雪機の導入によって、景観と環境の悪化をもたらしたこと、第3ステージのアルプスでは、環境に負荷を与えることが少ないソフトツーリズムの推進が求められていることを論じる。最後に、sustainable development(持続可能な発展)という言葉の解釈と定義の問題を検討した上で、持続可能なツーリズムの可能性をローカルとグローバルな視点から捉える。特に持続可能な発展を支える3本柱(「エコロジー(環境)」、「経済」、「社会」)をべースとして、COVID-19以後の今日的課題とツーリズムの関係を見ていきたい。
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