研究課題/領域番号 |
20K12464
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80030:ジェンダー関連
|
研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
古川 弘子 東北学院大学, 国際学部, 教授 (70634939)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
|
キーワード | 翻訳学 / 翻訳研究 / からだ・私たち自身 / 女のからだ / Our Bodies, Ourselves / ボストン女の健康の本集団 / Making a Baby / ようこそ! あかちゃん / ジェンダー / 言語使用 / リプロダクティブ・ヘルス/ライツ / ジェンダー・イデオロギー / 翻訳テクスト / 女性のからだ |
研究開始時の研究の概要 |
女性の協同作業により女性のために出版された、女性のからだについての本Our Bodies, Ourselves(1973)の邦訳『からだ・私たち自身』(1988)は、女性のからだや女性器にまつわる否定的なイメージを言語使用の変更によって払拭しようとする試みがなされた革新的なテクストであった。そこで本研究では、女性のからだに関するイデオロギーの媒介物としての、またはイデオロギーを変えるための道具としての翻訳テクストの役割に注目して考察していく。具体的には(1)『からだ・私たち自身』のテクスト分析、(2)その受容研究、(3)その後に出版された女性のからだに関する翻訳テクストの分析と受容研究を行う。
|
研究実績の概要 |
2023年度は、主に以下3点を行った。まず、昨年度から継続している『女のからだ』(秋山・桑原・山田訳、1975)と、その原著である1970年版と1973年版Our Bodies, Ourselvesの比較分析と考察を行い、翻訳方略とその効果、翻訳者の特徴と翻訳の意図、時代背景と読者受容を探った。その後、研究で得られた結果を論文にまとめた。 2点目に、『からだ・私たち自身』(『からだ・私たち自身』日本語版翻訳グループ訳、1988)と『女のからだ』に関する書籍の執筆を行った。この本では、これらのテクストを日本社会が求める「女らしさ」に抗った重要なフェミニスト翻訳であると位置づけている。社会が女性に対して押し付ける「女らしさ」に抵抗するための知識や情報、メッセージを伝えた翻訳者と編集者の活動に関する研究と、翻訳方略についての分析結果をまとめる予定である。 3点目に、子ども向けの性教育絵本Making a Baby (Greener & Owen 2021)と、その日本語訳『ようこそ! あかちゃん』(艮・浦野訳 2021)を定性分析した。その後、パラテクスト内の翻訳者の言説や、読者受容の研究も行った。 上記の研究の成果として、1点目に関しては論文「『女のからだ』(1974)とフェミニスト翻訳」(WAN女性学ジャーナル)として発表できた。2点目については、すでに出版社が決定し、2024年度中の出版を目指している。3点目については、日本通訳翻訳学会第24回年次大会で「性教育絵本の英日翻訳の事例研究:Making a Babyと『ようこそ!あかちゃん』の比較分析から」と題した口頭発表を行うことができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度には、大きく4つの活動を行った。まず『女のからだ』についての研究を継続し、フェミニスト翻訳方略の視点からの分析結果まとめた論文を発表した。本論文では、Our Bodies, Ourselvesのもう1つの日本語訳である『からだ・私たち自身』との比較分析、『女のからだ』の翻訳者の意図や特徴、出版当時の読者受容と社会状況について考察した。翻訳方略は、1. supplementing(補足:性役割に関する意味の補足、女ことばの使用、平仮名の使用)、2. prefacing and footnoting(序文や脚注での補足説明)、3. hijacking(乗っ取ること)の3つの観点から分析と考察を行った。 次に、『女のからだ』と『からだ・私たち自身』の翻訳出版からそれぞれ約50年と35年が経ち、絶版となって久しいため、これらの翻訳テクストについてより多くの人に知ってもらうために、書籍の執筆を行った。本書で取り上げるのは次の3点である―1. 社会が考える「女らしさ」が翻訳にどう表れてきたか、2. 社会が考える「女らしさ」に翻訳はどう抗ってきたか、3.「自分らしさ」を大切にするために翻訳にできることは何か。 また、子ども向けの性教育絵本Making a Babyとその日本語訳『ようこそ! あかちゃん』の比較分析を行った。本書は、妊娠と出産に関わる情報を科学的かつ包括的に説明し、イラストと言葉の選択で多様性を伝える画期的な絵本であり、原著者の言説や、翻訳者によって日本語訳に追加されたパラテクスト内でもその意図が明示されている。記述的研究手法により目標文化とテクストの比較分析・考察をした上で、読者の言説による受容研究も行い、学会での口頭発表を行った。 最後に、日本メディア英語学会夏季セミナー2023に参加して言語景観研究の新しい研究手法とデータ分析を学び、本研究課題の研究手法の新たな可能性を探った。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、主に次の3点を行いたい。まず、現在取り組んでいる『からだ・私たち自身』と『女のからだ』に関する書籍の執筆と校正を行う。ここでは、原著と翻訳テクストとの比較分析、翻訳・編集者の特徴、翻訳の意図、当事者や読者への影響、出版当時の時代背景などについてまとめる予定である。この本は2024年度中に刊行予定なので、予定通りに刊行できるようにしたい。次に、Making a Babyと『ようこそ!あかちゃん』のテクスト比較分析から見出された点について、さらに研究してゆきたい。最後に、女性のからだに関わりのある他のテクストの日本語訳を題材として、テクスト分析や読者受容研究、可能であれば翻訳者へのインタビューなどを行いたい。これらの研究を通して、日本社会における女性のからだについての認識や受容の変化、課題などを探ってゆきたい。
|