研究課題/領域番号 |
20K12481
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80040:量子ビーム科学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小高 康照 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 技術専門職員 (00813396)
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研究分担者 |
長濱 弘季 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (00804072)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2023年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2020年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 高周波四重極線形減速装置 / 電気双極子能率測定 / イオンビーム輸送 / ペッパーポット型エミッタンス測定器 / AVFサイクロトロン / ビーム軌道計算 |
研究開始時の研究の概要 |
宇宙の反物質消失機構の解明を目指し、原子の物質・反物質対称性の破れを探索するために重元素・フランシウム(Fr)の永久電気双極子能率(EDM)を10の-30乗ecmの世界最高感度で測定する実験の鍵となる大強度・低速・低エミッタンスFrイオンビームを実現する。そのために、核融合反応で金(Au)標的の幅1mmの範囲にFrを生成するため、理研AVFサイクロトロンで100MeVに加速した強度18eμA以上の酸素イオンビームを収束するビーム輸送法と生成したFrイオンビームを減速・冷却して、EDM測定に必要な中性化器表面に局所的に集中して停止させる高周波四重極線形減速装置を相乗的に開発する。
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研究実績の概要 |
世界最高感度の電気双極子能率測定に必要な酸素イオンビームと金との核融合反応で生成したフランシウム(Fr)の収量増強が目的である。 大強度イオンビーム用ペッパーポット型エミッタンス測定器(PEM)開発は①180MeVのマグネシウムイオンビーム測定結果をビームプロファイルモニタ測定結果と比較し、必要な角度精度は0.3mrad以下と見積る。②角度精度改良のためPEMマスク穴径縮小法の検証を計画した。入手可能なマスクの最小穴径は0.1mm、厚さが0.1mmなのでビームが停止する運動エネルギーに対応する東京大学タンデム加速器施設に試験設備構築を進めている。③PEMカメラの放射線損傷低減のため、カメラをビームラインから離すカメラ光学系の遠隔距離拡大と撮影視野拡大とビーム像の位置精度を追求した。撮影用ビューポート口径を40から48mmとした結果、遠隔距離を1.9から2.2m、撮影視野を約1.5倍に拡大し、位置精度0.15mmを維持した。④有用情報を得るため過去の低強度ビームエミッタンス測定結果を分析した。誤差無しビームエミッタンスを推定し、比較して得られたビーム角度精度は想定以上の1mradとなり、誤差原因もほぼ特定した。 RFQDは①イオン減速機構はないが、原理はRFQDと類似し、高周波電場を用いて質量分離するRF質量分析器を試験した。Frイオンビーム中に数千倍の不純物を確認し、Fr純度向上が重要と認識した。イオンビーム強度測定に影響する二次電子の除去機構と崩壊α粒子によるFr強度測定精度向上も必要と分かる。これらはRFQDにも共通課題である。②Fr専用RFQD設計のためビーム運動計算を継続している。RFQD中のイオンは交流四極電場を受けつつ、Heガスとの衝突で減速・冷却される。ビーム運動計算結果を先行研究と比較するとガス無しの場合は一致したが、ガス有りの場合は一致せず原因を追及中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PEM開発は①PEMカメラの放射線損傷を低減する手段として、ビームラインからカメラを離す望遠レンズによるカメラ光学系の基礎構造は確立し、改良により撮影視野が広がったのでさらに焦点距離の長い望遠レンズにより遠隔距離の拡大を追求できる段階に入った。②角度精度改良のためPEMマスク穴径縮小法の検証や性能評価のためのビーム照射テストの頻度を増やし開発速度を上げるため、東大タンデム加速器施設にテスト設備構築を開始できた。これによりビーム照射テストとその結果を説明するシミュレーション計算を繰り返し、より速く測定精度の信頼性を上げることができる③複数のビームプロファイルモニタを用いて真のエミッタンスを推定し、それと比較することによるエミッタンス測定精度の評価方法が確立しつつある。④ビーム照射中の測定器の発熱を抑制する迅速なビーム照射・停止制御機構の構築についての概念設計はできており、回路構築と制御プログラミングを既存の技術で進められる。 RFQDは、新型コロナ感染症の影響でオランダ・フローニンゲン大学からの本体の移設は2023年度に延期されたが、本体の実験装置への実装に必要な課題は進行している。具体的には①表面電離イオン源の引出電極にRF質量分析器を導入した。試験の結果、引き出したイオンビーム中にFr以外の不純物が数千倍存在すること、イオンビーム強度測定に二次電子が影響すること、崩壊α粒子によるFr強度測定精度向上が必要なことが認識されたので、解決すべき課題が明確になり、RFQD開発に反映させることができる。②Frイオン専用RFQD設計のためにイオンビーム運動計算方法の構築を進めている。Heガス中のイオンビームの減速を伴う交流四極電場中の理論的なビーム運動計算プログラムは先行研究と比較できる状態になった。ただし、先行研究との整合性について課題が残っている。
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今後の研究の推進方策 |
PEM開発は、東京大学タンデム加速器施設におけるビーム照射テストの頻度を上げ、性能評価により測定器とそれに起因する測定誤差を明らかにし、最終的には得られた情報を元にシミュレーション計算のみで最適化された測定器とビーム輸送系の設計ができるようにする。ビーム照射中の測定器の発熱を抑制する迅速なビーム照射・停止制御機構を完成させ、ビーム照射と停止間の時間の短縮も追求する。この時間が短いほど測定器の発熱を抑制し、より強度の大きいビームの測定ができる。そして全測定システムが安定に稼働することを確認し、それが達成できた段階で大強度ビーム照射テストを申請し、測定器が耐えうるビームパワー上限を判断する。同時に測定した大強度ビームエミッタンスを用いたビーム軌道計算を試みて、既存のビーム輸送系の使用可能性の可否を判断し、否であれば新しいビーム輸送系を設計する。 RFQDは、Frイオン専用RFQD設計のためのビーム運動計算を完成させる。単粒子運動による原理的な計算については先行研究との矛盾点を解決し、次に実際のRFQDを再現した3次元計算電場を導入し、複数イオン粒子を用いたビーム運動計算により最適化されたRFQDを設計する。RFQD本体の移設後は動作試験により健全性を確認し、試験用イオン(ルビジウムなど)を用いた性能評価を行う。これらの性能評価とビーム運動計算が完了した後にFr専用RFQDへと改造する。将来的にはEDM実験装置の表面電離イオン源からのFrイオンビームに混入する不純物の除去、ビーム強度測定精度の対策を講じて、表面電離イオン源の後段に実装する。実際に酸素イオンビームを金に照射してFrを生成し、RFQDを使用しFr収量の評価を行う。
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