研究課題/領域番号 |
20K12498
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80040:量子ビーム科学関連
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研究機関 | 立教大学 (2023) 学習院大学 (2021-2022) 東京理科大学 (2020) |
研究代表者 |
立花 隆行 立教大学, 理学部, 助教 (90449306)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2020年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 電子遷移誘起脱離 / アルカリハライド / 陽電子 / 量子ビーム / 固体表面ダイナミクス / 電子衝撃脱離 / 表面物理 / 原子分子物理 |
研究開始時の研究の概要 |
陽電子ビームと固体表面の相互作用の解明を進めるなかで,低エネルギーの陽電子をイオン結晶に入射すると,電子―陽電子対消滅によって固体表面から分子イオンが非常に高い効率で真空中に脱離することを発見した.この様な分子イオンの脱離は電子や光子を入射では起こらず,陽電子の入射に特有の現象である.しかしながら,分子イオン形成過程やそれが脱離に至る機構については不明な点が多い.イオン結晶のなかでも単純な結晶構造と電子構造をもつアルカリハライドを試料として,陽電子ビームの入射によって起こる分子イオン脱離の過程について解明を進める.
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研究実績の概要 |
低速陽電子ビームが結晶表面に入射すると、電子-陽電子対消滅を介して正イオンが表面から真空中に脱離することがある。本研究では、アルカリハライド結晶を試料としたときに観測されるイオン脱離機構の解明を目的としている。昨年度の改良により質量分可能を大幅に向上させることに成功した装置を用いて、フッ化リチウム結晶表面から脱離する正イオンの検出を進めた。電子ビームを照射した場合では、水素イオン、フッ素イオン、リチウムイオンなどの原子イオンの脱離のみが観測されたのに対して、陽電子を入射した表面からは、フッ化水素イオンとフッ素分子イオンとみられる信号が検出された。さらに、分子イオンの脱離収率は試料温度に強く依存することも明らかになった。この様な依存性は電子衝撃による原子イオンの脱離においては確認できなかった。実験結果を踏まえて、陽電子入射に誘起される分子イオンの脱離現象を説明する脱離モデルを提案した。また、分子イオンの脱離と試料温度の関係を明らかにするために、分子イオン脱離収率の温度依存性の測定を試みた。その結果、試料温度が250℃以上で分子イオンの脱離が観測できることがわかった。しかし、現在使用している電源では試料温度の微調整が困難であった。加えて、より精度の高い温度測定子も必要であることがわかった。これらの理由から、詳細な温度依存性についてはまだ測定できていない。次年度では測定に適した電源とパイロメータを購入し、試料温度制御システムを完成させて研究を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
質量分解能の高める改良を施した装置を用いて、陽電子入射によって引き起こされるフッ化リチウム結晶表面からのイオン脱離の観測を進め、脱離イオン種を特定することに成功した。500eVの電子を試料表面に照射した場合には、結晶を構成するリチウムとフッ素の正イオンの脱離が観測された。さらに表面に吸着した残留ガス分子に由来する水素イオンの信号も検出された。これらの脱離種は、これまでに報告報されている結果と矛盾しない。一方、同じエネルギーの陽電子を入射した場合、フッ化水素イオンとフッ素分子イオンの脱離が観測された。この結果は、入射した陽電子が結晶中で分子あるいは分子イオンの形成に関与することを意味している。この分子形成過程と脱離機構を説明するために、熱化した陽電子と2つのアニオンが束縛して分子負イオンを形成し、その後に陽電子消滅誘起オージェ崩壊によって正分子イオンとなったものが真空中に脱離するというモデルを提案した。研究内容をまとめた論文を投稿した。
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今後の研究の推進方策 |
分子イオンの脱離現象の観測を進めるなかで、脱離収率が試料温度に強く依存することが明らかになってきた。分子イオンの形成と脱離過程の理解を進める上で、試料温度の寄与を明らかにすることは重要である。しかし、現在の測定系では高い精度で試料温度を制御することは困難である。そこで、試料加熱用の電源と温度測定用のパイロメータを新たに購入し、試料温度制御系を新たに開発する。これにより、分子イオン脱離収率の温度依存性の詳細を明らかにする。
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