研究課題/領域番号 |
20K12550
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分90020:図書館情報学および人文社会情報学関連
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研究機関 | 津田塾大学 |
研究代表者 |
柴田 邦臣 津田塾大学, 学芸学部, 教授 (00383521)
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研究分担者 |
松崎 良美 東洋大学, 社会学部, 助教 (00822157)
吉田 仁美 日本大学, 文理学部, 准教授 (20566385)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | EdTech / 障害児 / インクルーシブ教育 / 本質的学び / Learning Crisis / 伝承 / 歴史 / 文化 / AI / 体験学習 / 社会的学び / ICT / 障害者 / リテラシー |
研究開始時の研究の概要 |
EdTechは私たちの「学び」の本質的な向上に結びついているのだろうか。一方インクルーシブ教育が発達障害や学習障害に対応するための「体験的・能動的学習」も「楽しかった経験」に終わってしまい、本質的な学習効果には、結びついていない。本研究はEdTechとインクルーシブ教育の双方を「情報技術を社会的に活用する」という社会情報学の観点から架橋し、ブームで終わらせない「本質的学び」の具体例を実証する。具体的には、文化施設を活かしたアクティブ・ラーニングのインクルージョン化を量的調査と詳細なフィールドワークによって分析する。さらにそれらを共有可能なサイトなどの提案や、学術報告をとおして社会貢献をはかる。
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研究実績の概要 |
EdTechは私たちの「学び」の本質的な向上に結びついているのだろうか。2023年には、精神・身体、さらには人間関係などさまざまな事情で「学校に行くことができない」不登校の子どもたちが25万人を上回り30万人に迫ろうとしている。これらは、本研究における「EdTechの次」のまさに舞台となっているような、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)感染拡大から続く 「学び」全般の危機的状況=Learning Crisisの、全面的な展開のひとつと言い得るのではないだろうか。本研究はEdTechとインクルーシブ教育の双方を「情報技術を社会的に活用する」という社会情報学の観点から架橋し「本質的学び」の具体例を実証することを目標としている。 2023年は、博物・科学・美術館など文化施設における制約がほぼなくなったため、データの収集・分析を進めることができた。さらに、2020年のCOVID-19 Crisis以降、長い休館・条件付き開館の時期に、来場しなくても楽しめるようなデジタル・コンテンツが増加しており、まさにEdTechの典型例といえる。 2023年度は以上のような状況を踏まえ、これまでのA2調査結果を現状にあわせて再整理するとともに、B調査のためのデジタルでのプレゼンテーションを踏まえた本格的な分析をおこなった。特に、インクルージョン・障害児という観点からの考察については、江頭・柴田(2024)、貝原・柴田(2024)などとして公表されている。また、文教施設の、特に「伝承と学び」という観点からのまとめとしてのKaihara・Shibata(2024)などは、B調査の顕著な成果として公表されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、本研究の延長1年目であった。本研究は基本的に展示・体験型の文教施設を対象にしていることもあり、研究期間全体にわたって常にCOVID-19の影響が続くものであった。 その渦中のLearning Crisisの現状は「EdTechの次」という本研究のテーマとして、障壁でありかつ重要な分析対象である。それらに対応することで、進捗上の調整は幾度も必要ではあったが、COVID-19の影響が終わりつつあり、昨年理論的に導入できた「伝承と学び」という視角から論文が執筆できたことを鑑み、おおよそ順調であると自己評価している。 まず、1点目として、COVID-19 Crisisの影響が薄れる中で、文教施設が実際に開館し活動をはじめている点を踏まえて、本格的な分析をすすめ、論文を得られるまでに到達している点である。COVID-19 Crisisにおいて、さらに障害のある子どもたちにとってこそ、もっとも深刻になっているLearning Crisisの中で、どのような体験学習が求められるかが明確になってきている。本研究をまとめ上げる方向性として、順調な見通しをえることができている点が、自己評価できる。 もうひとつは、情報面・技術面での進展も進んでいる点である。本年はこれまでの動画試作などと並行し、いよいよ情報を整理してデータベース化を進める土台をえることができた。特に前述論文のコーディングは、本研究のB調査をまとめる最も重要な枠組みとなるだろう。 本研究は2024年へのCOVID-19特例延長をお認めいただいており、それを元にさらに充実した成果を実現する見通しが出ている。COVID-19下の事情により、研究の変化は必要ではあったが、量的にも質的に当初予定に比肩する研究成果を提案できる見込みを踏まえ、このような自己評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、研究期間が常にCOVID-19の影響が続く中となった本研究においても、ようやく落ち着いて文教施設を活用した学習が可能になる環境が取り戻された、はじめての年となるだろう。一方、長きにわたる制約や教育の場の揺らぎによって、多くの障害のある子どもたちは、努力して学ぶ意欲を鈍らせている。現に、不登校の児童・生徒は年間30万人にのぼろうとしている。彼ら彼女らにとってのLearning Crisisは、まさに継続中の問題であり、本研究のめざす「EdTechの次」は、そういった子どもたちの学ぶ意志を支えるものでなければならない。 時代的・社会的意義を踏まえ、本研究としては、これまでの調査分析と理論考察を整理し、具体的な成果として社会に問うていく年度としたい。まず、本明確な論点として浮上してきた、「博物館や資料館が、子どもたちに何を残すことができるのか」、という観点での「学びと伝承」、そのアクティブ・ラーニングの可能性について、その考究を深めていく。2023年度は東日本大震災の「伝承館」での調査を進めたが、その後、能登半島地震なども起こる中で、どのような文教施設・伝承館によって「学びと伝承」が果たされるのか、きわめて重要な論点が浮上してくる。インクルージョンと未来への観点から、本研究の最終版として、長期的視点に立った議論をおこなう。 それにあわせて、デジタルでの文教施設・伝承館の情報を収集し、それをデータベースとして整理するB調査をすすめる。インクルージョンの観点からこれらの証跡を収集し整理するのが、2024年度の最大の目標となる。学術報告・論文執筆として、本研究がもつインクルージョンの観点からのLearning Crisisは、世界的にも注目に値する視角を提示できると考える。国際会議での発表、論文の投稿、さらには書籍などの執筆まで視野に入れて、結論をまとめていきたい。
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