研究課題
基盤研究(C)
哺乳類では子が育つために親の養育が必須である。養育行動が適切に発現するためには、知覚刺激として入力された子に注意を向けるといった認知処理が必要である。本研究では、一夫一妻で家族で子を育てるコモンマーモセットを用いて、霊長類の養育行動に関わる認知と、その神経基盤を検討する。まず、子マーモセット刺激に対する選好や注意を定量できる認知課題を開発する。次に、被験体の内側視索前野を機能抑制し、上記課題の遂行がどのように影響を受けるかを明らかにする。さらに、認知課題のデータを実際の養育行動のデータと対応付けて検討し、養育関連認知における内側視索前野の役割を明らかにする。
今日、親による子の虐待やネグレクトなどが社会的な問題となっており、適切な養育行動の発現に必要なメカニズムを理解することが重要な課題となっている。本研究では、一夫一妻で家族で子を育てる小型霊長類コモンマーモセット(Callithrix jacchus)を用いて、養育行動に関わる認知神経基盤を検討する。マウスでは、内側視索前野に分布しているカルシトニン受容体を発現する神経細胞が養育行動に重要な役割を持つことが分かっている。マーモセットにおいても、内側視索前野にカルシトニン受容体を発現する神経細胞が分布しているため、これらの神経細胞が正常な養育行動の発現に必要である可能性がある。今年度は、カルシトニン受容体を発現する神経細胞を薬理学的に操作して養育行動への影響を調べるため、カニューレを留置したマーモセット12個体を作出した。マーモセットは、上のきょうだいも両親と同等の養育(子の背負い行動)を示し、この行動は内側視索前野に強く依存することがわかっている。このため、本研究でも家族の維持のために上のきょうだいを被験体とした。母親の出産後に、被験体の内側視索前野に対してカルシトニン受容体のアゴニスト(amylinもしくはsalmon calcitonin)、アンタゴニスト(AC187)、もしくはコントロールとして人工脳脊髄液(aCSF)を投与した。投与後に子の回収テストを実施し、aCSF条件と各薬剤条件を比較した。結果、amylin投与条件においては、背負い率の増加や拒絶率の低下といった養育行動の改善が示唆される結果を得た。ただし、ベースラインの養育が良い個体は天井効果のためアゴニスト条件が実施できないなどの制約があり、結論付けるためにはさらにデータを増やす必要がある。
2: おおむね順調に進展している
マーモセットへのカニューレの埋め込みや薬剤投与といった手技を確立し、実験データも得られていることから、おおむね順調に進展していると考えられる。
引き続き内側視索前野への薬剤投与実験を推進する予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
Cell Reports
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Psychiatry and Clinical Neurosciences
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