研究課題/領域番号 |
20K12786
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分01010:哲学および倫理学関連
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研究機関 | 北海学園大学 |
研究代表者 |
鵜殿 憩 北海学園大学, 法学部, 准教授 (00814104)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | ヒューム / 徳認識論 / アクラシア / 非合理性 / ヒューム主義 / 倫理学 / 合理性 / 新アリストテレス主義 / 信念の倫理 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、主体がPだと信じるべきでないと判断しながらPだと信じるという認知的アクラシアの可能性を擁護し、信念の随意性を説明することを試みる。この現象を理解するための基礎として、人々が自らの信念を意志的に制御することが可能であるとする「信念に関する主意主義」に焦点を当てる。そして、このアプローチをデイヴィド・ヒュームの信念論および感情論と組み合わせることによって、信念と行為を並列的に論じる可能性を開く新しい理論へと鋳直す。さらに、その成果を合理性、自由意志、規範性等の諸概念の相互関係を整理する哲学史的研究、および認知的アクラシアを巡る問題の現代社会的意義を評価する学際研究へと発展させる。
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研究実績の概要 |
令和5年度は、認知的アクラシア論を土台に、現代の徳認識論が研究の焦点としている認知的徳の条件や知識の価値についての考察を展開した。具体的には、ヒュームが展開した認識論の基本的な性格についての主要な論点の整理と、先行研究の批判的検討を行った。徳認識論者に対する批判の一つに、彼らの焦点が「認知的抑制epistemic restraint」、すなわち知識の探求を控えることの重要性を無視または軽視しているというものがある。こうした批判への応答として、「好奇心 curiosity」の認知的役割に着目し、認知的抑制と好奇心の間には内的な関係があるという主張をヒュームのテキストから抽出する可能性を探求した。また、ヒュームは徳認識論の原型とも言うべき考えを提出する一方で、認知的抑制の重要性を認めている点を明らかにした。 2023年5月20日、日本哲学会第82回大会において、「好奇心は猫を殺すか?」という表題で報告し、ヒュームが与えた哲学的分析を手掛かりにし、好奇心が認知的抑制の観点からも、有徳な性格特性に関係していることを説明した。また、9月6日、ヒューム研究学会第33回例会にて、「ヒューム哲学における認識と実践」という表題で発表を行った。12月9日、慶應義塾大学で開催された、ワークショップ「ヒュームと分析哲学」(言語哲学研究会主催)においては、「ヒュームの社会的認識論とアクラシアの問題」という表題で講演し、信念と情念の関係に関するヒュームの理論を応用し、人間の共感および社交性が認識と密接に関連していることを明らかにした。ここでの成果は、2024年4月30日発行の哲学誌『フィルカル』の特集「分析的ヒューム研究」において掲載される論文「ヒュームの社会的認識論とアクラシアの問題」においてまとめられている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度は、現代哲学において議論される「認知的アクラシア」の成立可能性についての研究を順調に進めることができた。また、現代の認知的アクラシアの不可能性論に対して、ヒューム的見地から反論を行う作業を実施することができた。 2023年4月8日発行の『図書新聞』第3586号において、成田正人(著)『なぜこれまでからこれからがわかるのか-デイヴィッド・ヒュームと哲学する』青土社に対する書評を執筆し、ヒューム哲学における「帰納法の問題」について、新たな視点から考察を深めることができた。 5月20日の日本哲学会第82回大会での発表では、認識的抑制と好奇心の間には内的な関係があるという主張を、ヒュームのテキストを手掛かりにしながら行った。好奇心と新しい情報に対する寛容さ(open-mindedness)は密接に関連するため、現代心理学の知見を徳認識論の研究に活用することが重要であることを再認識することができた。本発表で得られた洞察の多くはまだ活字化されていないため、今年度中に成果を論文として公表することが期待される。 さらに、12月9日に慶應義塾大学で開催された、ワークショップ「ヒュームと分析哲学」(言語哲学研究会主催)において発表を行い、その成果を哲学誌『フィルカル』の特集「分析的ヒューム研究」において掲載する運びとなった。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は、昨年度に引き続きヒュームが展開した認識論の基本的な性格についての主要な論点の整理と、先行研究の批判的検討を行う。また、それを基に認知的アクラシアの本性を解明する上で重要な「知識」と「行為」の間の連関について考察を進めていく。さらに、その手掛かりとして、ヒュームの哲学に現れる実践知への洞察に着目する。具体的には、行為と結びつき、また行為の内にある「実践知」が認識に果たす役割を説明する。また、ヒュームが「技能の発展モデル」によって、人間の認識の発達を捉えている点を明らかにする。 次に、先行研究を手掛かりにして、認識者による自己制御self-regulationについての研究を行う。認識者の自己制御は、デカルト以来の合理主義の哲学において中心的な役割を担ってきた。合理主義的な認識論は、「責任」や「許容」といった規範倫理学的な諸概念を用いながら、認識者の自己制御における反省reflectionの重要性を強調する。これに対して、本研究は、認識者の自己制御を、行為知・暗黙知の観点から分析できるという新たな可能性を探求する。認識者の自己制御についての合理主義者の考え方は、個人の自律性および自由を尊重する近代の理念とも密接に結びついているため、そのような近代の理念についての系譜学的・比較史的研究も実施し、18 世紀のスコットランド啓蒙との関連についても調査する。 令和6年度は、研究の最後のまとめの年であるため、認知的アクラシア論を土台にした認知的徳の条件や知識の価値に関する研究の成果を、海外のジャーナル に積極的に投稿していく。また、単著書“Agency, Virtues and Responsibility in Hume's Epistemology(仮題)”の出版に向けて、原稿を鋭意執筆する。著書の出版に際しては、科学研究費研究成果公開促進費に応募したい。
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