研究課題/領域番号 |
20K12801
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分01020:中国哲学、印度哲学および仏教学関連
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
近藤 隼人 筑波大学, 人文社会系, 助教 (70802643)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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研究課題ステータス |
中途終了 (2021年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | ロンチェンパ / 両面鏡 / 自己認識 / シャイヴァ / イーシュヴァラクリシュナ / サーンキヤ・カーリカー / タルカ・ジュヴァーラー / タットヴァ・サングラハ・パンジカー / 初期サーンキヤ / ヤージュニャヴァルキヤ・スムリティ / マハーバーラタ / モークシャダルマ / チャラカ・サンヒター / サーンキヤ / カシュミール / チベット仏教 / ユクティディーピカー / 学説綱要書 |
研究開始時の研究の概要 |
インド・チベットの境界領域カシュミールに焦点を絞り、古典インド正統哲学学派の一、サーンキヤ派の思想がカシュミールにおいていかに爛熟を遂げ、チベット仏教文献へと伝承されたのか、伝播系譜の文献実証的解明を試みる。最重要文献『ユクティディーピカー』のカシュミール撰述説を起点とし、同地撰述と目されるニヤーヤ文献、シヴァ教文献、仏教文献中のサーンキヤ説を抽出しつつ、カシュミールにおけるサーンキヤ説の展開を読み解く。さらに、ロンソンパやチョンデンリクレル等の学説綱要書を対象としてチベットにおけるサーンキヤ思想の伝承内容ならびに伝播経緯を解明し、失われたサーンキヤ思想史の再構築を内外の視点から越境的に行う。
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研究実績の概要 |
チベットへのサーンキヤ思想伝播系譜解明の一端として、2021年度はニンマ派の代表的学匠ロンチェンラプジャン(1308-1364、「ロンチェンパ」)による学説綱要書Grub mtha' mdzod(GDz)およびYid bzhin mdzod 'grel(YDzG)に着目し、そのサーンキヤ章に焦点を当てた。 YDzGには統覚を両面鏡に喩える比喩がみられ、他派の綱要書とも同様の構造が示されるが、GDzには例外的にもプルシャが登場しない。GDzの記述には唯識章の自己認識の文脈に登場する両面鏡比喩との関連が見て取れるが、この点はサーンキヤ章の同比喩にみられた「知は光照および認知を本体とする」という言明が一般に自己認識論証の一環として用いられることから裏付けられる。この点は、同じく自己認識を説くシヴァ教再認識派との親和性からも解読可能であり、ロンチェンパの時代にはシヴァ教説が部分的に混入したサーンキヤ説が流布していた、ないし「サーンキヤ」の名のもとにシヴァ教説が語られていた、などの思想史が想定される。 この問題は両綱要書のサーンキヤ章の典拠に関する疑問を生むが、ロンチェンパの列挙するサーンキヤ文献名の記述からその解明を試みた。ロンチェンパの挙げる"mtshan nyid lnga bcu pa"(五十特質)という文献名はバーヴィヴェーカ著『タルカ・ジュヴァーラー』の記述に遡りうる。また、"dbang phyug nag po"(イーシュヴァラクリシュナ)を文献名とみなしている点は、同表現を『サーンキヤ・カーリカー』(SK)の著者名とすら認識しておらず、実際には原著を参照していなかった点を示唆する。さらに、SKのチベット語訳の対応も考慮すると、外教説の参照先としてつとに引き合いに出されるカマラシーラ著『タットヴァ・サングラハ・パンジカー』は参照されていなかったという可能性を推知させる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は前年度と同じく、パネル発表が決定していた国際学会が二件とも延期となったため、具体的な成果発表には至らなかったものの、サーンキヤ派を主要な論敵とする初期中観派のバーヴィヴェーカ(490/500-570)が実際にはいかなるサーンキヤ文献を典拠としていたのか、さらにバーヴィヴェーカの影響を多分に受けつつも、カシュミールを経由してチベット仏教各派へと伝えられたサーンキヤ思想がどのような変容を遂げることとなったのか、考察を進めることができた(本成果を軸とした実際の成果発表に関しては、2022年8月にはソウルで、2023年1月にはキャンベラで行う予定である)。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の後半となる2022年度以降は、サーンキヤ思想がインド仏教やチベット仏教の論師にとっていかなる意味を担いえたのか、サーンキヤ学の他派に与えた影響を中心に考察を進めていく。 そのための第一歩としては、「サーンキヤ」の語義を再考しつつ、『サーンキヤ・カーリカー』においても認識手段(プラマーナ)の一つとして挙げられる〈信頼できる言明〉に着目する。具体的な方策として、開祖カピラの権威に対していかなる姿勢を示しているのか、『サーンキヤ・カーリカー』の注釈書として知られる『ユクティ・ディーピカー』(論理灯)に焦点を当てる。また、断片が利用できる箇所については、『サーンキヤ・カーリカー』の亀鑑とされた『シャシュティ・タントラ』(六十科論)との同異点や、可能な限りにおいて史的変遷を探究する。「サーンキヤ」の語は一般的に合理的思考や論理的思弁を意味するように、サーンキヤ派においては合理的思弁が重視される。その点を考慮すると、先人等の〈信頼できる言明〉と推理が同レベルの認識手段として並び立つことには違和感も覚える。特に開祖カピラの言明に対して示される態度を解明することで、サーンキヤ派の有する学問としての意義について明らかにしていく。
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