研究課題
若手研究
本研究は、愛知県奥三河地域の近世期の民俗信仰について、説話伝承の観点より考察を加えるものである。中心となる研究対象は、奥三河地域の在地宗教者(太夫)が行った宗教儀礼である。奥三河地域の太夫の家には、祭文をはじめとする近世期の儀礼詞章が数多く遺されている。本研究では、そうした儀礼詞章の中で祭神の来歴を説く説話の内容について分析する。その際には、各説話の文学上の系譜と地域独自の伝承的展開の両面に特に注目する。これらの研究を通して、奥三河地域における民俗信仰の思想体系を解明する。また他地域との比較研究を行い、奥三河地域の事例をより普遍的な日本文化研究へと展開させる。
本年度は、奥三河地域の太夫家に伝えられた宗教儀礼に関わる文献について、これまで収集した調査記録の分析を行った。特に、16世紀の陰陽道の盤法に由来する呪術書と、土公神祭文を中心に取り上げた。併せて、他地域の文献や民俗儀礼の調査も行い、奥三河地域の事例との関連や内容の相違についての比較研究を行った。陰陽道の盤法に由来する呪術書は、豊根村の太夫家に写本が伝来している。本研究の2020年度の研究業績『奥三河宗教文献資料集―陰陽道と民俗信仰―』(松山由布子編,2021年3月)にて、西岡芳文氏(上智大学)により翻刻・解説が加えられている。この資料の内容と共通する図が墨書された同時代の土器や木製呪盤が各地の考古学遺跡より出土していることをふまえ、文献と考古学遺物との繋がりについて、『アジア遊学』第278号(勉誠出版,2022年12月)にて報告した。土公神祭文については、奥三河地域の写本の特徴について研究を行った。その成果として、説話と民俗儀礼との関わりについては、伝承文学研究会令和四年度大会(2022年9月11日,高崎経済大学)にて、中世の宗教的学知の民俗芸能への広がりについては、国際ワークショップ「日本芸能史研究の新地平―宗教と芸能の相関を問い直す―」(2023年2月21日,コレージュ・ド・フランス)にて口頭発表を行った。また、奥三河地域の土公神祭文が神楽祭文であることから、その比較対象として、愛媛大学鈴鹿文庫所蔵『地鎮祭次第』についての報告(『日本宗教文化史研究』第26巻第1号,2022年5月)、国立歴史民俗博物館所蔵吉川家文書の地鎮祭の祭文についての報告(『国立歴史民俗博物館研究報告』第240集,2023年3月)を行い、地鎮祭にて用いられる祭文の特徴を確認した。この他、本研究の成果をもとに、広島県備後地域の祇園信仰の調査を行い、日本民俗学会第74回年会(2022年10月2日,熊本大学)にて口頭発表を行った。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、これまでの調査研究の成果を順次報告すると共に、奥三河地域以外の事例との比較や、中近世における宗教伝承の展開にも研究の範囲を広げることができた。最終年度に向けて研究はおおむね順調に進展している。
COVID-19の流行に伴う2020年度・2021年度の行動自粛によって実施できなかった資料調査を補足的に行う。その上で、これまでの研究を総括する報告を行い、奥三河の説話伝承についての地域的特徴を具体的に明らかにする。加えて、地元自治体や研究機関と協力し、研究成果の社会還元を行う。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件) 図書 (2件)
『国立歴史民俗博物館研究報告』
巻: 240 ページ: 1-15
『日本宗教文化史研究』
巻: 26 (1) ページ: 91-101
『アジア遊学』
巻: 278 ページ: 31-42
『説話文学研究』
巻: 55 ページ: 186-189
40022695521