研究課題/領域番号 |
20K12977
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02030:英文学および英語圏文学関連
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研究機関 | 横浜国立大学 (2021-2022) 沼津工業高等専門学校 (2020) |
研究代表者 |
高瀬 祐子 横浜国立大学, 教育学部, 准教授 (30708433)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2021年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2020年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 家族 / 共同体 / スピーチアクト / 分断 / 恐怖 / 暴力 / 黒人奴隷制 / 虐待 / 場所 / 人新世 / 記号論 / 暗号 / エドガー・アラン・ポー / 黄金虫 / 地下資源 / 不動産小説 / 不動産表象 / 場所性 / 家 / 家庭 / アメリカ / アメリカ文学 / 不動産 / 情動 / 欲望 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究ではアメリカ文学における不動産表象を分析し、家やその土地の表象に潜む情動的効果及び政治的な欲望を明らかにする。人文学研究において、場所や空間に対する意識の転換を試みる研究が注目を集めるなか、個人主義的な思想が社会に蔓延し、格差が進行している。このような批評的な流れと社会情勢を背景に、本研究では不動産に注目する。家族に関するレトリックは血縁を核とし感情に作用するため、精密に分析することにより、家の表象に潜む情動的効果を明らかにすることができると予想する。また、土地に関する歴史や法律のレトリックを、文学研究の手法を用いて検証することにより、アメリカ国家の政治的な欲望を解明することを目指す。
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研究実績の概要 |
令和4年度は主に以下の点について分析を行った。Edgar Allan Poeの代表作の一つ、“The Black Cat” (1843)は、これまで主に黒人奴隷制や家庭内における女性虐待などの視点から議論されてきたが、これまでの研究を踏まえ、異なる視点から本作の新たな読みの可能性を探った。そのための足がかりとして以下の文を取り上げた。For the most wild, yet most homely narrative which I am about to pen, I neither expect nor solicit belief. この文は、本作の冒頭部分で語り手がこれからペンを執ろうとしている物語について述べている文である。 猫殺しと妻殺しの物語として読まれる本作に、家族や家庭というイメージはない。本作を、語り手と妻、そして複数のペットからなる家族という共同体として考察すると、共同体が語り手の暴力によってどのように変化したか、また火事という喪失を経て、空間の移動を余儀なくされる中でその再生を求める様子が見える。 共同体が喪失と再生を経験しながら、内部の暴力によって、少しずつ形を変え分断を繰り返す様は、領土拡張の最中にあるアメリカが、国家という共同体を拡大しながらも、暴力的な行為と不条理による損失をまぬがれない19世紀的なアメリカの姿だけでなく、迫り来る南北戦争すら予見しているようである。さらに、声なき被害者であった妻の数少ない言葉に目を向ければ、そのスピーチアクトによって、語り手の内在する恐怖は喚起され、暴力は言葉に導かれていることがわかる。そして、2匹の猫とスピーチアクトの違いを見れば、語り手による虐待の最大の被害者であったはずの妻の言葉が、加害者である語り手の恐怖を生み出しているとすれば、そこには、共同体における言葉を介した恐怖と暴力の構図が浮かび上がる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度もコロナウイルスのパンデミックにより、年度前半は所属する大学では海外への渡航が制限されていたため、国際学会での発表や現地調査などは予定通りに進めることができなかった。年度後半は渡航も可能になったが、学内業務との兼ね合いで渡航は難しかった。そのため、研究室や自宅でできる文献の分析や資料収集、論文執筆、そして国内での学会発表に取り組んだ。 このような状況の中で、思い通りに進められない事項もあったが、研究発表と論文執筆を行い、ある程度順調に進めることができた。今年度も海外渡航が制限されていたため、そのための予算を使用することができず研究期間の延長を行った。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度はアメリカでの調査及び国際学会での研究発表を予定している。研究期間の最終年度として、これまでに実施した文献の分析や調査を踏まえて、論文執筆に力を入れる予定である。
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