研究課題
若手研究
聖書叙事詩における詩的霊感(人智を超えた物語を詩人に語らせる力)とは何か。詩的霊感の伝統は異教的古代から古代末期、さらにルネサンスに至る過程でどのように変容してきたのかを複数の作品から描き出す。本研究によって、古典期以降のラテン語文学、あるいはキリスト教文学の歴史においても、本邦ではほとんど顧みられていなかった聖書叙事詩という領域についてその概観を社会に提供しうる。
本課題における中心的な研究成果としては、古代末期の聖書叙事詩についてその作品構造、古典作品からの影響といった側面からの作品分析を行うことができた点である。ユウェンクス『福音書四巻』、セドゥリウス『復活祭の歌』、アラトル『使徒の物語』という新約聖書による聖書叙事詩について検討を行った。ラテン語叙事詩の重要な模範としてウェルギリウスが参照されるのは当然ながら、これらの聖書叙事詩にはそれ以外の詩人の影響(とりわけオウィディウス)が見られる他、いわゆる古典的な叙事詩とは異なる特徴を挙げることができた。成果の一部は一般書の一部として公刊され、聖書叙事詩に関する一般的な認知を高めることもできた。
以上の研究成果はまず国内における古典期以降のラテン語叙事詩の作品に対する認知の向上に貢献したことにある。いわゆる「異教的」な文化を代表する叙事詩という詩がキリスト教の主題をいかに取り入れ、変容していったのかを如実に示す聖書叙事詩は、古代末期の文学や文化を考える上で重要な作品群である。また、本課題の研究成果は初期近代におけるネオ・ラテンのラテン語叙事詩における聖書主題の取扱いについても扱い、古代末期の文学作品に関する受容の一端を明らかにすることもできた。
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