研究課題
若手研究
聖書叙事詩における詩的霊感(人智を超えた物語を詩人に語らせる力)とは何か。詩的霊感の伝統は異教的古代から古代末期、さらにルネサンスに至る過程でどのように変容してきたのかを複数の作品から描き出す。本研究によって、古典期以降のラテン語文学、あるいはキリスト教文学の歴史においても、本邦ではほとんど顧みられていなかった聖書叙事詩という領域についてその概観を社会に提供しうる。
主に古代末期の聖書叙事詩の詩人、ユウェンクス、セドゥリウス、アラトルについて整理し、研究を進めることができた。とりわけ、ウェルギリウスを古代末期の聖書叙事詩人らがいかに継承したのかという従来しばしば行われてきた分析の視点に加え、オウィディウス『変身物語』など別のモデルを想定することで、より多角的な作品の検証が可能になることが示された。また、これまで研究では十分に検討ができていなかったアラトル『使徒の物語』についても踏み込んだ作品の検討を行うことができた。明確な序をもたない冒頭、人物造形、聖書注釈の方法論など先行する聖書叙事詩人との違いを明確にすることができた。こうした各詩人の検討を経て、古代末期の実践におけるいわゆるキリスト教文学的な性格についても考察を進めることができた。とりわけ、詩人の立ち位置がそれぞれの作品で異なっていることがわかる。具体的には、福音書の作家と同等の資格を自身に認めるユウェンクス、典礼の実践者としての役割を自らの課すセドゥリウス、聖書解釈の学識者としてのアラトルといったものである。以上の成果は学会で発表を行ったほか、分担執筆でかかわった書籍の1部で公刊することができた。聖書叙事詩に関する現在日本語でアクセスできるほぼ唯一の著作となる。また、2022年度後期からは改めてルネサンス期の聖書叙事詩の検討も再開し、古代末期の作例がいかに継承されたのかを明らかにする準備に入った。既に進めている検討の内容については2023年度の学会発表を予定している。
2: おおむね順調に進展している
個別作品の検討がある程度進み、古代末期とルネサンス期の実践の比較に着手できていることからおおむね予定通りの進行となっていると判断する。
個別作品の検討はアラトル『使徒の物語』を中心にする。この成果についてはすでに5月に行われる学会での発表が決まっている。また、古代末期の聖書叙事詩がルネサンス期の作品に影響を及ぼした可能性の検討についても、6月の学会発表を行うことが決まっている。以上の成果を論文化し、公刊することを目指す。
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