研究課題/領域番号 |
20K12985
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02040:ヨーロッパ文学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
北岡 志織 大阪大学, 大学院人文学研究科(外国学専攻、日本学専攻), 講師 (60867894)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 現代ドイツ文学 / 現代ドイツ演劇 / 難民 / 公共劇場 / カタストロフの表象 / ドキュメンタリー演劇 / 他者表象 / 移民 / 現代ドイツ文学・演劇 / 証言の文学 / ドイツ文学 / ドイツ演劇 |
研究開始時の研究の概要 |
近年の難民の流入は、ドイツの公立の大劇場を一斉にアンガージュマンへと向かわせた。また難民自身が時には職業俳優たちと共に大劇場の舞台に立ち、自らの経験を物語るようになった。 本研究では、大劇場によるアンガージュマンの起点であり、また難民が「語る」契機となったエルフリーデ・イェリネク原作、タリア劇場『庇護に委ねられた者たち』のテクスト・上演分析から、そこにいかなる「他者」表象の問題が問いかけられているのか、そしてそこで提示された問題を後続の難民演劇がいかに乗り越えようとしているのかを、その「語り」を対象とした難民表象の分析と過去のカタストロフをめぐる表象の議論から総合的に考察することを目指す。
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研究実績の概要 |
2023年度の主な実績は論文「Echte Fluechtlinge?:Exoten auf der deutschen Buehne」である。これはドイツで出版された論集『Exotismen in der Kritik』(Series:Szenen/Schnittstellen,Volume11, Hg.v. Mechthild Duppel, Rolf Parr und Thomas Schwarz, Brill Verlag)に収録されている。この論文は2022年度に行ったドイツ語での口頭発表「Echte Fluechtlinge?:Katastrophen und die diskursive Konstruktion einer exotischen Authentizitaet der Anderen」に大幅な加筆修正を加えたものである。 この論文は2020年度-2021年度に取り組んだ「現代ドイツ演劇界において難民当事者が舞台で経験を物語る演劇の研究」と「難民が現代ドイツ演劇界の舞台に立つ要因(カタストロフと「表象不可能性」)の研究」、そして2022年度に取り組んだ「挑発的な難民像を示す演劇の研究」の成果をもとに、さらに難民演劇とエキゾチシズムという問題に着目して公共劇場における難民演劇の動向と難民の表象の変化を考察した研究成果である。 難民流入当初は難民の「語り」が証言と同一視され、それが演劇的なものと対比されることにより、「真正性」が強調されてきた。しかし何度も繰り返し類似の演劇が上演され表現形式が固定化すると、「真正性」は語りよりも寧ろ難民の外見や言語の「他者性」に求められるようになったと言える。そしてそのようなドイツ演劇界の動向に対する批判として『夢の船』における挑発的な難民像があらわれたと考えられる。 この論文に加え、これまでの研究成果をまとめて博士論文を執筆した。審査は2024年度に実施予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2023年には渡航の制限は大幅に緩和されたが、報告者は健康上、2020年、2021年、2022年と同様に新型コロナウイルスの関係で当初予定していた現地調査を断念せざるを得なかった。そのため、引き続き日本で取り寄せることが可能な映像資料とテクスト資料の分析を行った。その結果、難民流入後に公共劇場内外に生じた変化の研究として、難民を主題とした戯曲『Willkommen』の喜劇性と芸術アクション『Fluechtlinge Fressen』(2016年)における難民表象と政治性についての考察を行うことができた。これらの研究は博士論文の第六章第一節および第三節にあたる。 他方、現地調査を断念したため、難民当事者による公共劇場外での演劇実践についての研究を中断している状況である。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度はこれまでの研究成果を踏まえた上で、①難民演劇と植民地主義の想起の問題の研究および②公共劇場外での難民演劇実践についての研究を行う。 ①『夢の船』の考察からも明らかにしたが、近年の難民演劇に過去の植民地主義を批判するような台詞や演出が多く見られる。もともとは現代の難民の権利向上や受け入れの促進という意味合いが強かった難民演劇がいかに過去の植民地主義を想起する場となったのかを上演分析及び劇評から考察する。 ②これまでは主に公共劇場における難民演劇とその変化について考察してきたが、ドイツ演劇界のメインストリームである公共劇場の変化は公共劇場外の難民演劇にも影響を与えていると考えられる。公共劇場外での難民演劇の変化、特に難民自身による演劇実践の変化についてベルリン、ハンブルク、ミュールハイムで実地の調査を行い、考察する。
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