研究課題/領域番号 |
20K13043
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02060:言語学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
阿 栄娜 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 客員研究員 (20710891)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2020年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 音声言語の獲得・発達 / 乳児 / 流音 / 音韻弁別 / 知覚実験 / モンゴル語 / 音声言語 / 乳幼児 / AX discrimination task / 乳児音声発達 / 言語獲得 |
研究開始時の研究の概要 |
母語の獲得には、乳児期に獲得される音韻体系が極めて重要な役割を果たすことが知られている。乳児の言語発達過程からみると、生後早期にはあらゆる音素を弁別できるものの、生後一年を経た頃には母語に含まれない音素が弁別できなくなるというPerceptual Narrowing仮説が広く提唱されている。だが、この仮説の言語普遍性については未解明の部分が残る。 日本語母語話者にとって英語の/r/と/l/の弁別が困難であることが、多くの知覚実験によって明らかにされてきた。本研究ではモンゴル語と中国語の/r/と/l/の音韻弁別知覚実験を通して、乳児が日本語音素の/r/を弁別・獲得するメカニズムを解明する。
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研究実績の概要 |
世界の言語の流音のタイプに「単式」と「複式」がある。単式の言語は/r/と/l/を音韻的に区別せず、複式の言語は/r/と/l/を音韻的に区別する。世界の多くの言語は複式型に属するが、日本語は単式型である。そのためか日本語母語話者は英語の/r/と/l/の弁別が困難であるとされてきた。しかし、先行研究では英語の流音のみが対象になり、他の言語の流音でも同様の結果が得られるかは不明である。本研究では複式型の言語であるモンゴル語の/r/と/l/の音声刺激を用いて、日本語を母語とする乳児と大人を対象に弁別実験を行ってきた。 モンゴル語は、アルタイ・ウラル語族の特徴により、語頭に/r/音がくることを嫌う。/r/音で始まる単語はほとんど外来語である。しかし先行研究では、語頭で対立する音声を使っていたため、本研究でも語頭で対立する音声刺激を用いた。 これまでに得られた主な結果は以下の通りである。①、4~5か月の日本語を母語とする乳児はモンゴル語の/r/と/l/を統計的に有意に弁別できないが、9.5か月の乳児は弁別できることが明らかになり、先行研究とは異なる発達のパターンが確認された。②、日本語を母語とする成人24名と中国語母語話者の成人16名を対象にAX taskを用いて①の音声刺激の対を弁別できるかを確認した。その結果、日本語を母語とする成人のモンゴル語の/r/と/l/の弁別課題における正答率は約58%であるのに対し、中国語母語話者の平均正答率は約96%であった。日本人の大人にとって、語頭におけるモンゴル語の/r/と/l/の弁別は困難であることが明らかになった。 上記の②の内容を日本音声学会で口頭発表を行った。また、実験の結果をまとめ、英語で論文執筆を行った。近日中に海外の学会誌に投稿する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた乳児を対象にした実験に加え、大人を対象にした知覚実験も実施できた。実験の結果、日本語を母語とする乳児と成人、中国語母語話者でモンゴル語の/r/と/l/の弁別パターンが異なることが明らかになった。 また、研究成果を日本音声学会で発表し、研究成果の内容を論文にまとめる作業を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験では、語頭で対立するモンゴル語の/r-l/の無意味語の音声刺激を使用した。語頭で現れるモンゴル語の/r/はそり舌音で発音されるが、語中や語末の/r/音は弾き音または震え音で調音される。一方で日本語の/r/音は弾き音で調音される。 そこで、最終年度には、語中または語末で/r-l/が対立するモンゴル語の音声刺激を用いて、日本語を母語とする乳児に弁別実験を行う予定である。
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