研究課題/領域番号 |
20K13152
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02100:外国語教育関連
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研究機関 | 東洋英和女学院大学 (2021-2022) 広島女学院大学 (2020) |
研究代表者 |
関谷 弘毅 東洋英和女学院大学, 人間科学部, 准教授 (60759843)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 井の中の蛙効果 / 習熟度別クラス / クラス内での位置づけ / 学業的自己概念 / 学習動機 / 学習ストラテジー / 学習量 / 英語教育 / 大学英語教育 / 習熟度によるクラス分け / クラス内の位置づけの影響 / 日中比較 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、大学英語教育において、個人の英語運用能力が同じであっても習熟度水準が高いクラスに所属すると、自尊感情や動機づけなどが低下するという、「井の中の蛙効果」を検討する。具体的には、7000名以上の大学生を対象に、英語学習に対する学業的自己概念、動機づけ、学習ストラテジーの使用、学習量の変化が、所属する習熟度別クラス及びそのクラス内での位置づけによってどのように異なるのかを、そのプロセスとともに検証し、学生の専門間比較、国際比較を行う。本研究の成果は、プレイスメントのあり方の再考につながる可能性を秘めており、大学英語教育に大きな示唆を与えられると期待できる。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は,日本の大学英語教育における「井の中の蛙効果」を検討することであった。2022年度は,新型コロナウィルスの感染拡大の影響が依然として大きく,国内において当初依頼を予定していた研究機関での調査の実施は実現しなかった。国外での調査においては中国の上海市にある研究機関を予定していたが,ロックダウンが施行され渡航することができなかった。そのため,改善のための介入法の模索,すなわち「井の中の蛙効果」により不利益を被る学習者を想定し,クラス内の他の学習者(ピア)がどのような態度・振る舞いを示せばそうした不利益を軽減できるのかを模索することを中心的な研究活動とした。言語活動を学習者同士で行う際に,よりよい聞き手になるための要件を特定すること,そしてそれを身に着けるための介入法の開発を目標とし,以前別の目的で行った研究を別の視点から分析することでその達成を目指した。
具体的には,傾聴スキルと質問スキルの教示が,学生の英語の対話活動の充実にどのように寄与するかを分析した。また,この教示の効果が個々の情緒要因によりどの程度変化するかも合わせて検討の対象とした。日本の中学生を対象とし,傾聴スキル群,傾聴スキル+質問スキル群,統制群の3つに分けた。各群には,それぞれの条件に応じた教示が提供された。分析の結果,傾聴スキルの教示が話者の発話の流暢さと正確さに良好な効果をもたらし,さらに質問スキルに関する教示が加わると正確さをさらに高めることが明らかとなった。また,発話において誤りを犯すことにおいてリスクを極力避ける傾向のある話者は,相手が積極的な傾聴スキルを用いることで,その結果が向上することも確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予定どおりに進行した点:2021年度までに国内での調査により,非英語専攻の学生はより習熟度の高いクラスに所属すると学業的自己概念が高まる傾向を,また英語専攻の学生はより習熟度の低いクラスに所属すると学習動機が高まり,クラス内の相対的な位置が高いとさらに学習動機が高まる傾向を明らかにした。これらの結果から,プレイスメントテストによる機械的な習熟度クラス分けは,英語学習において常に学習者の自尊感情や学習動機を最適化するわけではないことが示唆されたといえる。2022年度は先述のとおり,学生同士の会話活動において,傾聴スキルの教示が話者の流暢さと正確さに良好な効果をもたらし,さらに質問スキルに関する教示が加わると正確さをさらに高めることが明らかとなり,「井の中の蛙効果」によって不利益を受けている学生に対する対策の一つの可能性を提案した。方向を転換した計画についてはある程度遂行することができた。
予定どおりに進行しなかった点:本来は,1年目に質問紙の項目数を減らしたうえで改めて妥当性と信頼性の検討をし,協力者に負担のかからない尺度の作成を目指していた。また,その上で中国版質問紙を作成し,妥当性と信頼性を検討する予定であった。しかし新型コロナウィルスの感染拡大により,調査依頼を予定していた多くの教育機関において調査が不可能となった。2年目も状況は正常化せず,調査の実施は依然として1校においてのみとなった。3年目も状況が改善する見通しが立たなかったため,上述のとおり計画の変更をし,方向転換する運びとなった。中国またはそれに代わる国や地域での調査の実施も現在なお中断せざるを得ない状況である。
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今後の研究の推進方策 |
2023年5月現在,新型コロナウィルスの感染は終息を迎えつつあり,本研究プロジェクト開始当初の計画を遂行することができる可能性が高まっている。ただ,本年度は最終年度であるため,より確実性が高いと考えられる課題を優先する。具体的には以下の優先順位で課題を遂行する予定である。
①改善のための介入法の模索:2022年度の成果から,「井の中の蛙効果」により,不利益を被る学習者にとってクラス内の他の学習者(ピア)がどのような態度・振る舞いを示せばそうした不利益を軽減できるのかの糸口をつかむことができた。今後はさらにその効果を高めるため,言語活動を学習者同士で行う際のよりよい聞き手になるための介入法の改善を目指す。 ②インタビュー調査の先行実施と分析:「井の中の蛙効果」により不利益を被っていると思われる学習者を特定し,インタビュー調査を実施する。具体的には,所属する習熟度クラスとクラス内での位置との関連の中,動機づけ,学業的自己概念,学習ストラテジーの使用が変化するプロセスを探るための半構造化面接を実施する。分析はキーワードを抽出して質的分析及び計量テキスト分析の手法を用いて進める。 ③中国以外の国・地域での実施:本来調査対象として予定していた中国に加え,他の国・地域も視野に入れ,調査遂行の実現性を重視して柔軟に対応する。そのための準備として,質問紙の各尺度数を厳選したうえで実施言語に翻訳する。これらの尺度に関して,日本語版との因子構造の同一性,及び内的整合性,再検査信頼性の確認したうえで本調査の実施を目指す。
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