研究課題/領域番号 |
20K13194
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分03030:アジア史およびアフリカ史関連
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
岩田 啓介 筑波大学, 人文社会系, 助教 (60779536)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 清朝 / アムド / チベット / 青海モンゴル / ラクダ / 档案 / 交通路 / 牧地 / ツァイダム盆地 / 青海 / 乾隆帝 / チベット仏教 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究課題は、漢地(中国本土)・チベット・モンゴル・東トルキスタンの接壌地帯に位置するアムド地方(東北チベット)を対象として、清朝の档案史料(公文書)とチベット語史料を併用し、18世紀後半から19世紀前半のアムド地方における社会の動態を近世チベット社会の形成と位置づけ、清朝の政策と現地社会の動向との相互関係を分析する。そして、18世紀中葉までに形成された多様な文化的背景を持った人間集団を包摂する清朝の帝国支配がどのように変容し、それがアムド地方における近世チベット社会の形成との間でどのような関係にあったのか、その動態を解明することを目的とする。
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研究実績の概要 |
本研究は、18世紀後半から19世紀前半を中心に、漢地・チベット・モンゴル・東トルキスタンの接壌地帯に位置するアムド地方(現在の青海省を中心とする地域)の近世チベット社会の形成過程を、清朝の政策と現地社会の動向との相互関係に基づき分析することを目的とする。本年度はこの課題に向けて、清朝支配下の青海モンゴル社会と中央チベットとの間の政治的結びつき、及びアムド・チベット間の移動を支えた交通基盤の解明に取り組んだ。 第一の成果として、前年度の学会発表に基づく論文「1750年チベット政変前夜の清朝・チベット・青海モンゴル関係:ギュルメ=ナムギェル家の婚姻をめぐって」を発表した。当論文では、18世紀中葉に中央チベットの政権を掌握していたギュルメ=ナムギェル家と青海モンゴル河南親王家の間で進められた婚姻計画の経緯を、清朝を含む三者関係の枠組みから解明した。そして、18世紀後半以降のアムド地方に広く見られる青海モンゴルの衰退の一端が三者間の議論に見られ、その原因の1つとして牧地の環境に問題があると理解されていたことを確認した。第二の成果として、近世チベット・モンゴル間交通がいかにして維持されていたのかを、ラクダの管理に焦点を当てて分析し、中央チベットのナクチュとアムドの両地点でオイラトの影響を受けた人々が管理に関与していたことを解明した。この成果は第16回国際チベット学会において口頭発表した。このほか、前年度に購入した『西蔵自治区档案館館蔵蒙満文档案精選』の史料分析を進め、その成果の一部を史料紹介として発表した。また、本研究に関連する共同研究では、チベットの農業・牧畜に関する文献のデータベース化を継続して進め、特に近代の外国人による調査記録を網羅的に収集し、近世アムド・チベット社会の実態を復元するための基盤を整備した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度も、新型コロナウイルス感染症等の影響で、本研究課題の中核に位置づけている中国第一歴史档案館(中国・北京)での史料調査を実施することが困難な情況が継続した。 そのため、研究の根拠となる史料の代替として前年度から継続して、(1)既刊史料や過去に収集した清朝の公文書史料を重点的に利用することで清朝の政策史の解明を進め、(2)外国人による現地調査記録を網羅的に収集することで前近代における現地社会の実態の復元を試み、(3)新刊史料『西蔵自治区档案館館蔵蒙満文档案精選』の史料分析を行なった。その結果、19世紀のアムド・チベット社会を研究する上での基礎となる、隊商・巡礼・使者の往来に利用された交通路の基盤や、清朝支配下に通時的に認められる青海モンゴル社会の衰退の実態解明へと繋がる成果が得られた。これらの知見は、近世アムド・チベット社会の形成背景を理解するうえで必須のものと位置づけられる。このように、当初の予定通りの史料調査こそ実現できなかったものの、それに代わる方策を用いることで、次年度以降の研究の基礎となる諸事実の解明や、基本的な枠組みの整理が進んだと判断できる。しかし、当初予定していた北京での史料調査を実施できなかったため、特に18世紀後半から19世紀前半の清朝の政策史に関する研究は大きな進展を得ることができず、18世紀前半からの清朝の政策史を通時的に解明することに支障が生じている。以上の理由から、「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後も中国・北京での史料調査の実施が困難な情況が継続する可能性もあるが、中国・北京の中国第一歴史档案館での史料調査を最優先に計画している。ただし、実現が困難な場合には、史料の問題として代替手段を講じて研究を推進しなければならない。台湾・中央研究院所蔵の「内閣大庫档」には、中国第一歴史档案館より少数ではあるが、清朝のアムド政策史を研究する上で有用な史料があることを確認しており、代替としてその調査を行なうことも計画している。また、既に刊行されている清朝の档案史料として、『乾隆朝満文寄信档訳編』や『嘉慶道光両朝上諭档』等の精読も並行して進める。さらに、近年刊行され、本格的な研究が進んでいない新出の档案史料として、『西蔵自治区档案館館蔵蒙満文档案精選』と『清代西蔵地方档案文献選編』の読解にも取り組む。以上の史料収集・分析を推進し、個別の課題として具体的には以下の研究に取り組む。(1)前年度の国際チベット学会での口頭発表に基づき、モンゴル・チベット間の交通の基盤となったラクダを中心とする家畜管理システムの解明を進め、個別の研究論文を執筆する。(2)18世紀以降の清朝がアムド地方をどのように位置づけていたのかを、特に現地の地理及び隣接するチベットやジューン=ガル・新疆の情勢に注目して分析する。(3)18世紀後半以降に清朝史料の中で頻出する、アムド・カムの境界地帯を根拠地とするゴロク族による掠奪に関して、その要因と清朝やダライラマ政権の対応を具体的に解明する。以上の3項目の内、後2者については学会での口頭発表、または個別の研究論文として成果を公表するための作業を進める。さらに、前年度までの成果を含め、近世アムド・チベット社会の特徴とその形成要因を、現地社会の動向と清朝の政策を踏まえて多角的に考察し、本研究課題を総括する。
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