研究課題/領域番号 |
20K13201
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分03030:アジア史およびアフリカ史関連
|
研究機関 | 北海道大学 (2021-2022) 大阪教育大学 (2020) |
研究代表者 |
井上 岳彦 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 特任助教 (60723202)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
|
キーワード | カルムィク人 / ロシア帝国 / チベット仏教 / 社会事業 / 教育 / 福祉 / 慈善 / ボランタリー / 保護 / ロシア正教 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、ロシア帝国におけるカルムィク人仏教教団の社会事業について、同じチベット仏教徒のブリヤート人社会やムスリム社会(特にタタール人)と比較し、多宗教帝国におけるマイノリティの信仰世界の生成、接触、変容、多様化、さらに帝国外部との相互関係を歴史学的に解明する。仏教徒、キリスト教徒、ムスリムの三者が混住・共存する地域の未公刊史料を利用し、とくに孤児や高齢者の保護、貧民の生活改善などの社会事業に焦点をあて、仏教徒社会がロシア正教徒社会やムスリム社会といかなる関係を構築したのかを分析する。さらに、カルムィク人仏教徒がロシア市民社会や「チベット仏教世界」の公論形成に果たした役割についても考察する。
|
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ロシア正教を国教としていだくロシア帝国において、仏教徒、キリスト教徒、ムスリムの三者が混住・共存してきた地域の未公刊史料を利用し、カルムィク人の仏教教団がいかに自らの信徒を救済したのか、仏教教団による社会事業に焦点をあて、仏教教団がいかにロシア正教徒やムスリムの社会に対抗し、いかなる協力関係を構築したのかを分析することである。 しかしながら、令和4年度は、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で、申請段階での計画において予定したロシアでの史料調査を行うことができなくなったため、フィンランド・イギリス(11月)、ジョージア(3月)で調査を行い、ロシア渡航無しのロシア地方行政史研究の可能性を模索した。これらの調査は、本研究対象のカルムィク人社会における仏教教団と社会事業の関係についての解明に直結するものではないが、ロシア・ムスリム社会、アルメニアやジョージアにおける社会事業の展開を確認し、カルムィク人社会に関する本研究課題においても重要な視点を提供した。社会事業の制度化における相互参照の関係は、ロシアの公文書館史料でしか判断はできないが、同時代の傾向を読み取ることができた。さらに地域横断的な視点での研究を進める必要性を再認識した。 カルムィク人社会では、社会事業におけるボランタリー精神の利用や、obschestvennyi kapitalと呼ばれる基金にもとづく互助の制度化が進められたことが明らかになりつつあり、それらが社会事業の伝統的な担い手である仏教教団とどのような関係にあったのかをさらに調査することが必要である。 また、6月に開催された比較帝国史に関する国際ワークショップでは、ロシア帝国内の諸地域、さらにヨーロッパ諸帝国との比較の必要性が明らかとなり、本研究の世界史的重要性を確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和4年度においては、新型コロナウイルス感染症の流行がある程度終息したため、国外での調査を行い、それによって国内では入手できない多くの資料を検証することができた。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻によって、ロシア地方都市の公文書館史料を収集することができなかった。現地の公文書館での未公刊史料を閲覧することで、中央政府の動向だけを追うロシア史の主流傾向に対し、地方からの視点による新たな知見を提供することが、本研究課題において重要だった。そのため、ロシアでの調査ができないことは、当初の研究計画を大幅に遅らせることになっている。 しかし、令和4年度初めの研究計画の見直しによって、フィンランド、イギリス、ジョージアでの調査でその不足を部分的に補い、国内所蔵の既刊史資料を用いた代替方法を計画したため、現地調査ができない状態をある程度解消することができた。 令和5年度も、ロシア以外での調査によって、本研究課題により適切な調査方法を模索する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
新型コロナウィルス感染症のパンデミック、ロシアによるウクライナ侵攻による研究の遅れを補うため、当初の研究計画よりも研究期間を延長した。 令和5年度は、ロシアの公文書館史料を閲覧できない現状を補うため、カザフスタンでの調査を行う予定である。本研究対象のカルムィク社会と、北コーカサスの諸民族社会、中央アジアのカザフ社会、シベリアのブリャート社会とは、ロシア政府による社会制度の設計や維持において同時代的に相互参照が頻繁に行われたと考えられる。カザフスタンに所蔵されている様々な史資料の利用、カザフ社会の理解は、本研究の遅れを挽回し更なる発展を進める可能性を有しているため、カザフスタンでの調査によってロシア調査を代替する。 また、国内外の研究者と意見交換を行い、本研究の地域横断的な発展を模索していく予定である。
|