研究課題/領域番号 |
20K13285
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分04030:文化人類学および民俗学関連
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研究機関 | 神戸大学 (2022) 兵庫県立大学 (2020-2021) |
研究代表者 |
深川 宏樹 神戸大学, 国際文化学研究科, 准教授 (00821927)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 文化人類学 / 身体 / 社会性 / 言語 / 感情 / 時間 / 紛争 / パプアニューギニア |
研究開始時の研究の概要 |
本研究で注目するのは現地語で「重みを置く」と呼ばれる呪いの言葉の中でも、最も人々によって畏れられる「死に際の言葉」である。「死に際の言葉」は、発話者と血を共有する親族に対して、紛争や軋轢を理由に口にされる。その言葉は、発話者の人生の情況の総体を背景として、狂おしいほどに強烈な感情を込められて発せられ、発話者の身体が死に絶えた後も、いつの日か発話者自身の代わりとなって、被発話者を死に至らしめる。こうした「伝記的な生」の重大な局面に発せられる感情的な言葉を、環境や諸物に分配された人格の諸身体の一種、すなわち「言語身体」として新たに概念化することは可能か。これが本研究の核心をなす学術的な問いである。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、これまで申請者がパプアニューギニアで研究してきた紛争の処理と感情の動態という枠組みを、新たに過去・現在・未来にわたる「伝記的な生」に光を当てる「実存の時間の人類学」的アプローチへと展開し、紛争とその処理の文脈で発せられる感情的な言葉が、周囲の人々の現在に影響し、未来にわたって持続する効果をもつに至る社会的機制を解明し、独自の身体-感情言語論として理論化することにある。 本研究では、上記の研究目的を達成するために、2022年度は主に、ニューギニア高地のエンガ州で社会的に注目される「死に際の言葉」とそこに看取される身体観や言語観、さらに死との関連で、個人の強烈な感情とともに発せられる言葉の意義を、人の生涯にわたる社会関係の複雑な履歴や、個々人の実存的な「伝記的な生」の時間的深みとの関連で解明するため、文献調査と理論研究を行った。 調査地では、「死に際の言葉」の事例は、現地の「心臓」概念の論理に基づく。この論理によれば、「心臓」は思考や感情が宿る座であり、怒りや悲しみといった「心臓」の感情変容は、自己の身体ばかりか、「血のつながり」の身体的な連続性のロジックにも基づいて、血縁者の他者の身体の状態変容に直結する。さらに「死に際の言葉」の事例では、苦痛に満ちた叫びや言葉それ自体が、発話者の身体の代理となって、その言葉が向けられた者に物理的な作用を及ぼす事例すらある。こうした特異な事例を、エンガ州に固有の感情の民俗理論や言語観・身体観から、身体境界を越えて社会空間に分配された「諸身体(諸心臓)」の問題として精査し、それを文化人類学の「サブスタンス論」の先行研究と批判的に関連づけて考察することで、「死に際の言葉」を独自の「言語身体」として新たに理論化・モデル化し、国内の研究会で口頭発表を行い、学術論文として公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画は、おおむね順調に進展している。2022年度は文献研究と先行研究批判、ならびに理論研究を実施し、現地における身体・感情・血縁・「伝記的な時間」・言語の関係とそれらの要素間のダイナミックな連関についての資料収集と、その理論的なモデル化を行うための新規の発展的なアプローチの枠組みを構築することができた。 それに基づき、2022年度は、学術論文2本を公表するとともに、国内で2回の口頭発表を実施することで、その成果を発表してきた。そのため、2022年度は研究成果の積極公開を行うとともに、次年度に向けた研究蓄積を着実に実施してきたといえる。 以上の理由から、当該年度は研究が順調に進んだとみなしうる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、パプアニューギニア高地エンガ州を対象に、当該地域で社会的に最も注目される紛争の身体-感情的な言語の問題を取り上げ、その言葉が当事者や周囲の人々の現在と未来にいかに影響や変容を及ぼすかに関して記述分析し、さらにその言葉の「身体性」を文化人類学の「サブスタンス論」の観点から考察し、新たに「言語身体」としてモデル化するとともに、ニューギニア高地の独自のイメージ論の構築に着手した。今後の研究の推進方策として、2023年度は、以上の事例研究と理論研究をふまえ、次の発展的な研究を行う予定である。①「死に際の言葉」の事例考察から得られた知見を、さらにニューギニア高地の「村落裁判」の事例に接続し、展開するとともに、言語行為論に基づく古典的な紛争・感情・言語論から、近年の紛争・身体-情動研究、倫理と感情の人類学等を検討し、独自の身体-感情言語論のさらなる彫琢を図る。加えて、②人と物が共に紡ぐ「伝記的な生」を主題化した時間の人類学、そして特異な「実存主義」へと展開した「実存の時間の人類学」等を検討し、①の研究と総合して、さらなる発展を試みる。
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