研究課題/領域番号 |
20K13373
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分05060:民事法学関連
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研究機関 | 香川大学 (2021-2022) 駿河台大学 (2020) |
研究代表者 |
林田 光弘 香川大学, 法学部, 准教授 (70822667)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 取得時効 / 占有 / 所有の意思 / フランス / フランス民法 |
研究開始時の研究の概要 |
わが国では所有の意思をもってする占有(自主占有)が所有権の取得時効の成立要件とされるが、所有の意思の判断に関しては、実務と学理の両面において問題が存在する。本研究は、わが国の取得時効制度の母法と目される、フランス法における「所有者意思(animus domini)」の観念を研究することで、この問題に関するわが国の法解釈学に対して有意な示唆を得ようとするものである。
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研究実績の概要 |
本研究は、我が国の取得時効の要件である所有の意思(民法162条)について、フランス法の対応概念である所有者意思(animus domini)との比較法的考察を行い、もって所有の意思の判断枠組みという問題の解明を試みるものである。 本年度は、所有の意思(所有者意思)の有無が問題となる一場面である、売主による取得時効の可否に専ら焦点を合わせ、日仏法において判例及び学説の議論状況の分析を行った。一方で、日本の裁判例は、不動産売買の売主が売却後に目的物の占有を継続したとしても、売主による時効取得を原則として否定する。そして、学説の中には、この場合における売主の所有の意思の欠如(他主占有性)の理論的な説明に関連し、占有権原による所有の意思の判定という通説的な判断枠組みの限界を指摘するものがある。他方で、フランスにおいても、近時、売主による取得時効の可否が裁判上の争点となったところ、破毀院はこれを明確に否定し(Cass.Civ.,30juin2021,no20-14.743)、同判決の登場を受けて学説上も売主による取得時効の可否が再論されるに至っている(Ex. Anne-Catherine RICHTER, Quel reflexions libres sur l'usucapion du vendeur, Les Petites Affiches, Decembre2021 p.59)。本年度は、当該破毀院判決及びこれに対する学説の応接を分析することで、フランス法学説上、売主による取得時効の否定が追奪担保責任や代理占有(possession corpore alieno)といった様々な論理によって説明されていることを明らかにした。今後は、このような日仏法の議論を参考にしつつ、所有の意思(所有者意思)の判断枠組みという中心的課題へと検討を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和4年度は、当初予定していたフランスへの渡航が諸事情により叶わず、そのことも一因となり資料収集の面で満足のいく作業を行うことができなかった。また、当初公表を予定していた論文についても、準備段階で想定以上の時間を要したために公表まで至ることができなかった。さらに、本研究に関する研究報告の機会についても設定することができなかった。以上のことから、令和4年度の研究の進捗状況は、やや遅れていると言わざるを得ない。 しかしながら、令和4年度には、所有の意思に関する日仏法比較という本研究の主題にとって重要な足掛かりとなる、売主の取得時効の問題について分析を大きく進めることができた。このような分析は本研究の中心的課題の解決にとって重要なプロセスであり、今後の研究目的の達成にも見通しを得ることができた。次年度は、令和4年度の研究成果に基づき、研究発表および研究論文の公表を順次進めていく予定である。このことから、次年度は、本研究を大いに進捗させることができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までに、本研究の目的の達成に必要な基礎的作業として、取得時効制度の正当化根拠に関する研究(作業①)と、所有の意思に関する問題群の一つである売主による取得時効の可否に関する研究(作業②)という二つの課題に取り組み、一定の成果を得ることができた。そこで、今後の第一の研究方針として、作業①については今年度の前半期に、作業②については今年度の後半期に、それぞれ研究成果を論文の形で公表することを予定している。 さらに、次年度は本研究の最終年に当たることから、上記の作業①・②を基礎としながら、本研究の目的の達成を図ることが必要になる。一方で、作業①からは、取得時効制度における所有の意思(所有者意思)の位置づけを検討する際の基本的な視座を得ることができると考えられる。他方で、作業②からは、所有の意思(所有者意思)を検討する際の具体的な素材を得ることができる。そこで、これらの考察を踏まえつつ、本研究の目的であるフランス法における所有者意思(animus domini)の観念について総合的な考察をまず行う。そのうえで、フランス法から得られた知見に基づき、日本法における所有の意思の判断枠組みの問題に対して、日仏法の相互比較の観点から有意な解釈論上の示唆を得ることを目指していく。
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