研究課題/領域番号 |
20K13467
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分07030:経済統計関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
明石 郁哉 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 講師 (90773268)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 時系列解析 / 無限分散過程 / 自己加重法 / 多変量時系列 / 非線形回帰 / スペクトル解析 / ロバスト回帰 / 方向統計学 / スケール変動過程 / 経験尤度法 / 分位点回帰 |
研究開始時の研究の概要 |
経済・金融データの持つ従属性・無限分散性・スケール不均一性は、理論構成・データ解析の両面において扱いが困難な性質である。そこで本研究ではこれらの非正則性を持つモデルに対する頑健な統計手法を構成し、数理的保証を持つ解析手法の構成を目指す。特に経験尤度法・局所線形近似などの非母数的モデルに対する手法や、説明変数・誤差過程の無限分散性を制御する自己加重法・分位点回帰の手法を組み合わせ、広範なモデルに適用可能な手法を構成する。さらに近年注目を集める方向統計学の手法を経済データ解析に応用し、地理的データなどの方向データと経済データの統一的な解析手法の構築を目指す。
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研究実績の概要 |
実際のデータ解析においては複数のデータ系列を同時に扱い、系列間の相関関係・因果関係・予測子への他系列の影響などを包括的に解析することが求められる場合がある。そこで多変量時系列モデルの代表例である多変量自己回帰(VAR)モデルに対して、経験尤度法と多次元中央値に基づく頑健推測手法を構成し、誤差分布に対する柔軟な仮定の下で種々の統計量の漸近分布を導出した。結果は書籍の章として出版された。さらに当該結果を拡張し、多変量時系列モデルの点推定にとどまらず、テンソル計算によるモデル分解を導入し、分解後のモデルの要素の頑健推定量を構成した。推定対象のモデルの要素は、VARモデルにおける特徴量を表しているため、推定結果の解釈が容易になる。本年度はフロベニウスノルムに基づく単純な推定量(LD推定量)に加えて、経験尤度に基づく縮小ランク推定量の理論的性質を導出した。新奇的な結果として、LD推定量の場合では観測されなかった漸近分散の改善について、経験尤度に基づく手法では改善がなされることが判明したことが挙げられる。 時間変動モデルの頑健推測理論の研究においては、単なる点推定だけではなく、非定常過程特有の問題に対する検定手法を、ブートストラップ法を用いたアプローチで提案した。提案手法は、局所的なモデル係数の信頼領域の構成や、複数の異なる時点間での係数の同一性の検定などの幅広い応用を持つ。また推定量の漸近的なバイアスを導出し、有限分散過程における結果との差異を観測した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年、多変量データの低ランク性を考慮したモデリング手法が提案されている。特にVARモデルの係数行列にある種の低ランク性を仮定した状況での解析は従来行われてきたが、係数行列の行ランク・列ランクに個別に低ランク性を導入した結果にとどまっていた。一方で係数行列をテンソルと捉えなおし、高次特異値分解(Higher-order singular value decomposition; HOSVD)による分解を適用することにより、推定結果の解釈可能性を向上させる手法が最近提案された。そこで本年度は多次元自己回帰モデルの頑健推測理論において、上記のテンソル分解の手法を取り入れることにより、VARモデルの無限分散性・低ランク性を同時に許容した状況下での頑健縮小ランク推定量を構成した。さらに経験尤度関数に対して、特定の明示的な関数による近似を厳密に証明し、縮小ランク推定量の漸近分布を導出した。この結果に基づき、縮小ランク経験尤度推定量の漸近分散の意味での利点が明らかになった。 時間変動過程に対しては、自己加重法に基づく頑健推定量の構成に加えて、漸近分散のブートストラップ推定に基づく様々な検定手法の構成を行った。最小絶対値回帰の特徴として、漸近分散に誤差過程の確率密度関数の特定の値が含まれることが知られている。定常過程の場合は、残差に基づくカーネル密度推定量を用いて推定が可能であるが、本研究ではモデルの非正則性のため、先行研究で用いられてきた手法は使用できない。そこでマルチプライヤーブートストラップ法を用いて、ロス関数自体を再標本化することにより推定量の再標本化の手法を提案した。さらに理論的な性質を厳密に導出し、モデルの局外母数に依らない実行可能な検定手法を構成した。
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今後の研究の推進方策 |
VARモデルに対する低ランク頑健推測理論の結果は、今後シミュレーションによるパフォーマンス評価と、実際のデータ解析を通して実用上における利点も探求し、論文投稿を計画している。2024年度以降の課題としては、経験尤度法の実装と、高次元モデルへ拡張する際の問題点が考えられる。経験尤度法は統計量の内部に特定の関数の最大化・最小化を同時に含むため、単純に実装しただけではパラメータの次元数が高くなった場合に計算コストが膨大になる。また、係数のテンソル分解の一意性を保証するためには、変数を特定の多様体上に制限して最適化する必要がある。現時点では後者の問題について、先行研究を参考に適用可能なアルゴリズムを試用している段階である。前者の問題についても、計算機資源自体の拡張も含めて対処法を検討している。 時間変動モデルに対する頑健推測理論の論文は再投稿を計画している。こちらの論文も、単なるスカラー値モデルにとどまらず、多変量化・テンソル分解を用いた低ランクモデルの導入を計画している。特に、VARモデルのテンソル分解により、係数行列はラグ込みの従属性の指標を表す部分や、共通時点における要素間の相互作用を表す部分に分解されるため、必要に応じて時間変動構造を導入する要素を制限することで、よりデータに適したモデルを提案できる可能性が見込まれる。
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