研究課題/領域番号 |
20K13636
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分07100:会計学関連
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
根建 晶寛 福島大学, 経済経営学類, 准教授 (60739225)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2022年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2020年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
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キーワード | 包括利益情報 / リサイクリング / 業績予想 / 利益ベンチマーク / 価値関連性 / 研究開発投資 / アナリスト予想 / 株主価値 |
研究開始時の研究の概要 |
為替変動額や企業間でお互いに持ち合う株式(以下:持ち合い株式とする)など、市況変動を考慮するその他の包括利益を当期純利益に足し合わせた包括利益に注目が集まっている。本研究では、包括利益情報のリサイクル後に、経済的価値(利益増大に寄与する研究開発投資等)と社会的価値(人材育成など長期的な目線でのIRやCSR等)との効果的な融和がなされた時、包括利益情報のリサイクルがアナリスト予想や株主価値に寄与する証拠を提示することをねらいとする。包括利益マネジメントを求められる日本企業が、競争優位性を高める経路を明らかにすることは、社会的にも大きな貢献となるだろう。
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研究実績の概要 |
今世紀、わが国企業のグローバル化が加速するにつれ、包括利益に対応した経営が企業側に望まれるようになった。景気変動に対応する当該利益を意識した経営を実施可能なことは、日本企業経営者に要求される重要能力の1つとも考えられる。国内外の先行研究では、当期純利益と比較して包括利益が株価ないし株式リターンにどのような影響を与えたか検証したものが多い。しかし、2つの利益調整に焦点を当てた研究数はさほど多くない。とりわけ、「その他の包括利益として、計上済の値を改めてキャッシュの裏付けを有する当期純利益として計上し直す」リサイクリング(海外の英文ジャーナルでは「リクラス」という言葉が使われる)を深く実証的に考察した研究蓄積はごく一部である。当該利益を構成する大きな要素であるその他包括利益の一構成要素であるその他有価証券評価差額金の売却額に着目した研究は存在するが、包括利益基準制度化後の値を使ったものではない。 こうした状況をふまえ、申請者はR5年度もR4年度に引き続き、研究協力者とともに、海外の先行研究を幅広くレビューし、リサイクリングの実証研究を実施し、国際的にトップの研究者が集まる米国の会計学会で成果公表をした。R4年度と異なり、R5年度はその他有価証券のリサイクリングが株主にとって有用な情報かを実証的に検証する際、利益ベンチマークの種類を多角的に増加させた(R4年度の検証は、当該ベンチマークは経営者の予想に絞っていた)。主な検証結果として、ベンチマーク達成に向けてわが国企業の経営者は裁量的に含み損益をキャッシュの裏付けを有する利益に振り替えていた。現段階における興味深い結果として、経営者のリサイクリングの動機が利益や業績予想ベンチマークの裁量的達成の有無に関係なく株式市場の反応がポジティブであった点があげられる。 IFRS適用企業との国際比較やリサイクリングの他の動機を探ることにある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画を遂行するためには、国内外の包括利益に関する実証研究、アナリスト予想に関する先行研究の広範なレビューは必須となる。申請者は、包括利益総額やその他の包括利益総額と株価ないし株式リターンとの関係、純資産簿価に包括利益を加えたものと株式時価総額との関係を実証的に検証した研究のレビューをおおむね済ませている。また、その他の包括利益の各構成要素とそれらのリサイクリング額と株式市場との関係性を捉えた検証、海外企業のデータを用いてその他の包括利益とアナリスト予想との関係を捉えた検証もおよそ終了している。研究協力者の協力を得て、①. 当初の研究計画と一部異なるが、利益ベンチマーク達成(裁量的な利益目標達成や経営者予想達成など)の観点から、わが国企業の経営者がその他の包括利益のリサイクリングを実施しているかの実態分析、②こうした行動(特に持ち合い株式の売却を通じた企業変革)をどのように資本市場が解釈しているかを広範囲にわたり実証分析を行い、2023年度のはじめに公表したworking paperにさらなる遂行を重ね、海外のTopのカンファレンスで研究報告を行った。 しかし、申請者は、2022年7月に「脱炭素化と企業家の変革」と題するタイトルで研究報告を行っているが、企業を取り巻く環境的な観点も分析的視点に置き、当該研究に関する実証的検証まで作業を予定通り進めることができていない。育児や研究と教育以外の大学内の多忙業務が重なっているのも理由の1つとしてあげられるが、隙間時間でCSRに関する海外における先行研究の一部のレビューや環境経営をとらえる実証的な分析手法の学習は2023年度に実施できたので、少しずつ本格的な研究へと進展させていくことを今後の目標としたい。
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今後の研究の推進方策 |
残された課題をクリアするために、実行すべき課外がいくつか存在する。今後の主な課題は、①CSRに関する追加的なかつ広範な先行研究のレビュー、②データ取得と実証的検証の実施になろう。 ①については、CSR分野において、特にどの領域を深堀りし、論点を統計的に検証していくかを確認する上で重要である。2022年夏ごろの研究報告で、国連気候変動枠組み条約締結国会議(COP)の導入前後の潮流や株式市場の区分変更、気候変動に関する財務情報開示の動きを確認し、こうした制度的進展や変更が日本企業の経営行動に少なからず影響を与える可能性を紹介した。当時、経済産業省内で注目されていた「脱炭素化」は、その一例としてあげられる。当該報告で得られた発見事項(得られた示唆)にもとづいて、追加的な実証的論点を整理し、大量サンプルを用いた統計的検証を行う必要があるだろう。 日本企業の業務に大きな影響を与えうる脱炭素化は、実務的にも学術的にも関心を持たれているテーマである。②については、近年のトレンドにあわせ、最近のデータ年、すなわち、CSRデータ(環境編)2020年~2022年(3年分)について、本学事務局のご協力により、データベース担当業者と契約をしている。今後は過年度に入手したデータをうまく活用し、企業ごとないし業界ごとの企業をタイプ別に整理する(実態分析を行う)。そのうえで、その他の包括利益構成要素のリサイクリングとCSRとの関連性を探りたい。双方の領域の理論的及び実務的に議論になりそうな論点を整理し、実証的検証にまで発展させたい。
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