研究課題/領域番号 |
20K13678
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分08010:社会学関連
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
井上 慧真 帝京大学, 文学部, 講師 (10823156)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2021年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2020年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
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キーワード | 高校中退 / 早期離学 / 社会関係資本 / 社会的ネットワーク / 若者支援 / 生徒指導 / 移行 / トランジション / 教員文化 / 教育社会学 / 子どもの貧困 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、高校中退の予防、支援の過程の分析を通じて、子ども期と若者期における様々な困難を支えることのできるような社会的ネットワークを明らかにすることを目的とする。1・2年次に高等学校中退に関して先進的な取り組みを行っている高校、教育委員会、連携している機関への調査を行う。また3年次にイギリスにおける子ども・若者支援の調査を行い、比較研究を行う。
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研究実績の概要 |
(1)高校中退・早期離学の予防に関して、イギリスにおいて実施されてきたアプローチの調査研究を行い、日英教育学会第87回大会第31回大会(2022年8月30日 福岡大学)において「英国における早期離学者への施策─4地域の差異に注目して」報告を行った。同報告では、イギリスにおける早期離学対策の地域間の差異として、主に①義務教育年齢の引き上げ ② 教育維持手当(Education Maintenance Allowance 以下 EMA)の状況③政府のイニシアチブの 3 つがあることに注目し、これら3つの視点から教育への参加/再参加の保障の枠組みに注目して、イギリス内の差異を明らかにする。(報告要旨をもとに作成)」。同報告内容のうち、特にスコットランドにおける実践に関する研究論文を執筆し、投稿・審査中である。
(2)日本における高校中退の防止、高校中退者の支援のためのネットワーク形成に関する研究論文を論文として刊行した。「高校中退を経験した人の学び直しの過程-X県の高校中退者への公的支援からの分析-」であり『帝京社会学』36号に掲載された。同論文では、高校中退者の情報共有・支援のプラットフォームの草分けとなったX県の取り組みを対象に、どのような状況で高校中退者が学び直すことが可能になったかを分析した学びに向かう類型として、①中退直後から支援にかかわる情報を本人が得ており、そのときは来所には至らないものの、その後の生活の何らかの契機で二十代にさしかかる②家族、友人、恋人などにすすめられて来所、③教員や保護司などにすすめられて来所の3つの類型がある。それぞれの利用者のあゆみを振り返るとき、すでに就労して居り高卒認定資格取得後もその職場で就労を続けたケースでは短期間のかかわりであるのに対し、さまざまな困難が重なっていたケースではかかわりは長期的であり、学習支援/就労支援/家族支援という境界を横断して多岐にわたるサポートが提供されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究期間の延長をすることがあったが、これからの研究にとって重要な知見を得ることができた。特に下記の2点があげられる。 (1)英国の早期離学にかかわる若者政策の、イングランド以外のカントリーの独自性をこれまでの政策史料から明らかにした。たとえば教育維持手当はブレア政権期に新しい若者政策の一環として導入された。しかレイングランドでは 2010 年以降財政緊縮に伴い EMA が廃止され、16 to 19 Bursary Fund へ代替された。いっぽうウェールズ、スコットランド、北アイルランドでは EMA は継続して行われた。 ウェールズ、スコットランド、北アイルランドにおいては、所得における条件や対象となる教育訓練機関の種類は類似しているが、それぞれの地域に独自性がある。 (2)また、日本の場合、高校中退を含めた早期離学対策について英国、EU諸国ほど体系だった政策が展開されてきたわけではないが、一部都道府県において精力的な取り組みが重ねられてきた。この取り組みについてはこれまでも事業の概略は多くの研究で紹介されてきたが、本課題研究では前述のとおり、①中退直後から支援にかかわる情報を本人が得ており、そのときは来所には至らないものの、その後の生活の何らかの契機で二十代にさしかかる②家族、友人、恋人などにすすめられて来所、③教員や保護司などにすすめられて来所の3つの類型があることを明らかにし、それぞれの類型ごとに形成されてきた社会的ネットワークを明らかにすることができた。
当初目的としていた国際比較を行うにはさらなる研究知見の蓄積が必要であるという点では当初の計画以上の進展が見られたと結論することはできないが、上記のような知見を示すことが出来たという点でおおむね順調に進展しているものと結論した。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要(1)の示した知見については、英国のなかでも特にスコットランドに注目した研究を行い、研究成果を論文として投稿(審査中)である。「教育維持手当は、1999年にイングランドで、2004年にスコットランド、ウェールズ、北アイルランドで開始された。 イングランドでは廃止されたが、他の3カ国では支給が継続されている。教育維持手当は、包摂としての平等というブレア政権の若者政策の一環であった。若者を中心とするスコットランドの有志組織は、教育維持手当を利用する上で、特に出席率の要件に関して、ヤングケアラーが直面する課題を指摘した。この問題はスコットランド議会で議論され、その後、若年介護者やその他の弱者である若者が教育維持手当を利用・継続する際に直面する困難に対処するため、より柔軟な対応が導入された。」このような知見をもとに、英国の早期離学政策の特性、そして日本の若者政策へのインプリケーションについて今後さらに研究を進める予定である。
今回の調査では、教育維持手当について、より柔軟な管理の確立が指摘された。ヤングケアラーのような脆弱な若者は教育維持手当の重要な対象であるが、彼らにとっては、完全出席の要件がアクセスする上での障壁となっている。 この論文では、早期離脱に取り組む政策の難しさを明らかにしている。脆弱な若者を排除しないために、支援の要件をどのように設定し、どの程度の柔軟性を導入すべきかは、早期離脱に取り組む政策にとって大きな課題である。
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