研究課題/領域番号 |
20K13729
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分08020:社会福祉学関連
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
志賀 信夫 県立広島大学, 保健福祉学部(三原キャンパス), 准教授 (70772185)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 貧困理論 / 差別 / 階級 / 社会的排除 / 階級論的貧困理論 / 階層論的貧困理論 / 本源的蓄積 / 絶対的貧困 / 相対的貧困 / 貧困問題 / 社会的包摂 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、「階級」関係の視点をもって「貧困とは何か」を追究し、これに基づいて貧困対策の再検討を試みようとするものである。また、この研究の過程で、既存の貧困研究(既存の貧困研究の多くは、「階級」関係の視点がないものがほとんどである)が直面している諸課題を乗りこえるための具体的契機が現実のどこにあるのかについても、理論的に明らかにしていく。 なお、ここでいう「階級」関係とは、「資本-賃労働」関係を意味するものとして使用している。
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研究実績の概要 |
これまで「階級関係からみる貧困」について追究してきた。その成果については既に学会論文と著書(単著および共著)を刊行している。 2023年度分の研究成果については、論文3本となっている。 ①「社会開発の条件」『居住福祉研究』34(日本居住福祉学会)(P.50-P.61)では、経済開発の過程で差別と階級が利用されたことを明らかにすることを試みた。本論文の中で、差別とは、人工的に階級を生み出すための実践であるとした。差別によって階級化された集団は、社会的不利を強制される。この社会的不利の蓄積によって、貧困が現象するのである。 ②Okinawa and the Link Between Socioeconomic Disparities and Colonialism in Japan(Stanford Social Innovation Review)では、沖縄の植民地化過程において社会構造に織り込まれた差別と暴力について記述した。当該論文では、「貧困をどう捉えるか」という問いに対して、市民社会における「自由の欠如」を念頭に置いており、最新の貧困理論を基礎理論としている。 ③「企業主義的経済開発が生み出す貧困」『地域創生学研究』7(北九州市立大学)(P.21-P.33)については、生産手段の「収奪」が差別を利用して実施され、階級分化と社会的不利の固定化、本源的無所有状態の強制、貨幣への依存が創出され、生活困窮状態が質的に変化したことを論証した。この生活困窮状態の質的変化は「貧乏から貧困へ」という端的な表現にまとめることができる。貧乏とは、生産手段を所有しているものの物質的な欠乏が生じた生活状態を意味し、貧困とは、生産手段が収奪された結果、貨幣に依存せざるを得ない状況のなかで生じる貨幣の欠乏が惹起する物質的欠乏という生活状態を意味する。 以上が、2023年度の研究成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究の進捗状況については、想定外の事態もあったが、臨機応変に対応し概ね良好であると評価できる。 当初の研究計画段階では、「階級」からみる貧困理論の発展のため、渡英して一次資料などの蒐集を予定していたが、新型コロナウィルス感染症の世界的流行とそれに続く物価高騰等の社会状況の変化によってこれを断念せざるを得なくなってしまった。 しかし、「階級」や「資本・賃労働関係」から社会問題や生活問題を追究するという研究が主に欧米で一層進み著書などとして刊行されたことで、新たな知見を獲得する機会を得た。また、こうした海外の研究をヒントにして日本の具体的な「階級」分化の過程と貧困発生の関係を理論化する機会(研究プロジェクトへの参加)についても得ることができた。理論化のヒントとなった研究プロジェクトとは、具体的には、沖縄における貧困問題に関する研究、そして「公害」問題における差別と貧困の関係についての研究である。 これらの研究プロジェクトに参加した当初は、本研究との関連を特に意識していたわけではなかったものの、研究プロジェクトが進捗するにつれ、本研究の内容をさらに発展させたものとしてこれらのプロジェクトが位置づけ可能であることが明らかになってきた。2023年度の研究はまさにこの可能性をより鮮明にするものであったと思われる。 2024度の研究では、これらの研究を整理したうえで、「階級」と「貧困」の両概念を精緻化し、貧困理論のさらなる彫琢を試みたい。具体的には、査読論文と著書の両方を刊行したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究を進めるなかで、限概念となる「階級」について、さらなる発展的追究が必要であるということが明らかになってきた。 というのも、「階級」とは端的にいえば「社会における地位・身分」であるが、資本・賃労働関係だけがこの階級を構成する唯一の要素であるわけではないからである。例えば、黒人、女性、少数民族等々の、人びとの属性として認識されているものがそれ以上の意味を付与されていることがある。特定の属性をもつ人間集団に何らかの意味付けをおこなうことで社会的不利を強制する実践が差別であり、この差別によってある人間集団と他の人間集団のあいだに序列化された「地位・身分(=階級)」が形成されていくのである。階級化は特定の人間集団の社会的不利を助長・固定し、その人間集団に貧困を集中させる。 これまで、本研究では「階級=資本賃労働関係」という限定的な視点から貧困を分析してきたが、上述した理解に基づいて、今後はさらにより広い階級概念を使用して研究を進捗させていく予定である。 上述した知見と新たに設定した発展的課題は、具体的には、2022年度に刊行した安里長従・志賀信夫著『なぜ基地と貧困は沖縄に集中するのか』(堀之内出版)、2023年度に刊行した3本の論文執筆過程で着想を得たものである。これらの研究成果は、差別実践が暴力や社会的不利の付与を正当化してきた歴史について明らかにするという試みを中心にしてきたが、本研究との関連も常に意識しながら遂行してきたため、ようやくここで両研究の関連性が明確なものとなった。
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