研究課題/領域番号 |
20K13862
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分09010:教育学関連
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研究機関 | 天理大学 |
研究代表者 |
高橋 裕子 天理大学, 体育学部, 教授 (30206859)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2022年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 養護概念史 / 学校保健 / 教育学説史 / 雑誌「養護」 / 特別養護 / 虚弱児童 / 『倫氏教育学』 / 湯原元一 / 『麟氏普通教育学』 / 稲垣末松 / 学校保健史 / 総力戦体制 / 健康論 / 連続不連続 / 湯浅謹而 / 学校衛生史 / 養護 / 養護教諭 / 養護訓導 / 国民学校令 / 大西永次郎 / 学校保健史・学校衛生史 / 体育 / 教育会雑誌 |
研究開始時の研究の概要 |
学校保健は、児童生徒と教員の健康・安全を担う領域であり、その政務は、明治24年以来、文部省が担当してきた。現在はどの学校でも健康診断・感染症予防・危機管理や健康教育などの学校保健活動が計画的に行われ、養護教諭や学校医などの専門職員も存在する。 本研究では、これまでの研究が、整備された現在の姿に繋がる発展史を前提としていることを批判視し、日本が総力戦体制に向かう昭和初期に、文部省の学校衛生官・大西永次郞が説いた、体育としての「養護」論に着目しながら、政治情勢も踏まえつつ「養護」の概念史を明らかにする。これによって、学校保健史、広くは学校教育史の研究に新たな局面を拓くことを目的とする。
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研究実績の概要 |
学校保健は、学校教育を包括する領域である。その中核には養護教諭や学校医という保健管理の専門家が置かれている。この養護教諭は、学校教育法に児童生徒の「養護を掌る」とあるように、単に保健管理に止まらない教育の職務が位置づけられている。実際、学校現場で課題視されるメンタルヘルス不全・いじめ・虐待などの保健と教育にまたがる問題に、養護教諭は大きく貢献してきた(平20 ・中央教育審議会答申)。その職務を支える「養護」の歴史は、これまで養護教諭の重要性を説明する意図から、主に職制化の発展史の観点から研究されてきた。例えば、明治後期、トラコーマの洗眼補助のために出現した学校看護婦が、国民学校令(昭和16年)において「養護訓導」の職位を得たことが養護教諭史上の画期とされている。 しかし注意すべきは、その当時の日本の時代状況である。総力戦体制とは、第一次世界大戦以降の総力戦を勝ち抜くための国家体制であり、「一国の経済資源のみならず、人的資源までもが戦争遂行のために全面的に動員」され「総力戦体制が国民の体育を重視し、国民保健政策の整備」が不可欠、と認識するようになっていた(山之内靖『総力戦体制』2015 )。実際、当時の「養護」は「鍛錬」を補完する養護、すなわち体育論の一環として説かれていた。このように、現代の養護教諭像からは想像しがたい養護概念があったにもかかわらず、その点が看過されてきたのである。本研究ではそうした正負の見方を踏まえ、養護概念の歴史を明らかにすることを目的としていた。 ただし【現在までの進捗状況】に後述するように、2020年のコロナ禍により資料収集活動ができなくなり、その対策として、①研究の方向性:教育学説史の観点を加える、②資料:専門雑誌『養護』を用いる、および③研究期間:延長、との3対策を行うことで、2023年度は、論文:1件、学会発表:2件の成果を上げることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、本研究では、全国各地の教育会雑誌(梶山雅史氏らが調査整理した「都道府県・旧植民地教育会雑誌 所蔵一覧」2006 年、ほか)を資料とし、大正期から終戦までを対象に、為政者が求める「養護」にくわえて、各地の学校現場の教員が理解する養護概念も分析することを目的としていた。しかし、2020年以降のコロナ禍による行動制限により、予定していた資料収集ができなくなった。資料・都道府県の教育会雑誌は、復刻・市販化された『信濃教育』や『東京都教育』もあるものの、基本的には全国各地の図書館に所蔵される地域資料であるため、現地に赴いて閲覧・複写する収集活動が不可欠だからである。 そこで、①研究の方向性については、新たに、教育学説史という視点を加え、②研究資料については、国会図書館電子公開資料や、新たに専門雑誌『養護』『学童養護』(帝国学校衛生会、昭和3-12年。復刻版は大空社より2014刊行)を資料に用いることで、教育学としての「養護」が学校衛生の「養護」になり変わる概念史を明らかにすることを新たな研究課題とした。また、③二度の期間延長が認められたことも幸いした。コロナ禍でのオンライン授業への移行とその後の対面授業への復旧作業は、平素の大学教育・学生指導の業務を過密化させ、研究時間が確保できるまでには4年は要したからである。 上記の①-③の対応策のもとで、2023年度は次の成果をあげることができた。 【論文】高橋「明治後期の教育学説における養護概念(研究ノート)」『天理大学学報体育編』75(3)2024年2月(編集の遅れで実際は4月発刊)。 【学会発表】高橋「学校保健史における「養護」概念の成立」第70回近畿学校保健学会2023年7月、高橋「明治後期の教育学説における養護論の検討」日本学校保健学会、第69回学術大会2023年12月。 以上が、進捗状況は「概ね順調に進展」と評価した理由である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる2024年度は、【現在までの進捗状況】に前述したように、新しい研究の方向性(①)と、新しい研究資料(②)すなわち、専門雑誌『養護』『学童養護』(帝国学校衛生会、昭和3-12年。復刻版は大空者より2014刊行)における養護概念史の検討を継続し、2020-2024年度の研究成果を総括したい。加えて、当初予定していた全国の都道府県教育会を資料とした養護概念史の検討を、奈良県を事例に行ってみたい。奈良県の教育会雑誌・『奈良県教育』は、幸い、所属する天理大学の附属図書館に所蔵され、残存する雑誌の刊行年も(1920-1945年)、養護概念史の重要な時期をカバーしていることが期待できるからである 。 研究成果は、次の学会・学術雑誌を候補に、発表する予定である。*については、すでに演題登録を終えている。 【学会発表】*第71回近畿学校保健学会(2024年6月、於京都女子大学)、第70回日本学校保健学会学術大会(2024年11月、於岡山) 【論文】『学校保健研究』(日本学校保健学会)、『教育保健学会 年報』(日本教育保健学会)、『天理大学学報体育編』(天理大学)
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