研究課題/領域番号 |
20K13892
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分09010:教育学関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
木下 寛子 九州大学, 人間環境学研究院, 准教授 (40807195)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2022年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2021年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2020年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 学校 / 校区 / 地域性 / 解釈学 / 実践知 / 翻訳 / フィールドワーク / 社会科学の方法 |
研究開始時の研究の概要 |
今日,校区・地域間の多様性が際立ち,それらが学校に与えるインパクトの大きさが顕在化し始めている。本研究は,言葉になりにくい,各学校の実践の根拠をなす「地域性」の意味,およびそれを理解する方法を,現実の教育現場への参与を通じて明らかにするものである。研究期間には,方法のベースとなる解釈学的研究の文献調査を進めつつ,ある公立小学校での「地域性」理解の過程に焦点化した調査を行ない,校区の理解が表象レベルから「地域性」の実践レベルへと変容する諸契機を明らかにする。この試みは,学校とその諸実践の個別性を,地域の単位に埋め込んで適切に理解する現実的な研究枠組みを提起するものである。
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研究実績の概要 |
地域性理解は学校教育・学校生活の諸実践にとっての基礎をなすが、いまだ十分に理解されるに至っていない。このような見通しに基づき、地域性理解の内容およびその発生プロセスの解明を目標とする本研究に対し、昨年度までの研究では、「学校・校区」の理解を、移動しながらも校区で暮らす都市生活においてのもの、あるいは「暮らしの場としての学校・校区」として理解する視点を導き、厚みと多義性を持った問いの再設定を進めていた。 今年度(2022年度/令和4年度)は、フィールドでの学校成員らの発話採集に基づき、その解釈と理解が進む契機を抽出することが目標となる段階を設定していた。また、この探索的なプロセスに資する現代解釈学の概観を行うことが課題となっていた。さらに、感染症拡大状況下の2年間の間に生じた大幅な学校組織成員の入れ替わりや編成の変更、および申請者自身の研究拠点の変更を背景として、調査そのものの前提となる学校の状況理解のしなおしと関係性再構築が最優先課題と見込まれていた。 以上のような見立て・展開を踏まえ、フィールドワークでは保護者や子どもたちの校区理解の微視発生的な過程に立ち会うと共に、それに手がかりを得て、教師らがあらたな理解を得ていくプロセスに立ち会うことができた。 またこれらの調査と並行し、学校が校区のコモンズとして多義的に理解され、地域の成員、学校成員に共有されていく事例、学校や校区が絵や文章によって表現されることが教師の理解に何らかの仕方でインパクトをもつ事例など、個々の事例と共に地域・学校がその都度多様に理解されていく様と、そこに見えて来る地域・学校の理解の内容を明らかにして、学校教育研究やコミュニティ研究の領域との対話を進めてきた。また国内外の質的研究に関する諸学会で「解釈と翻訳」をテーマとしたシンポジウムを企画し、関連領域の研究者との議論を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展しているが、調査の方向性については変更が起おこり、研究成果に関しては現状として、まだ十分にまとまった形を示すことができていない。これは感染症拡大状況下の2年間の間に生じた大幅な学校組織成員の入れ替わりや編成の変更、および申請者自身の研究拠点の変更を背景として、調査そのものの前提となる学校の状況理解のしなおしと関係性再構築を最優先課題としたためのものであり、個々の課題としては順調に達成されている。また次年度の成果公開に向けてのメンターの交渉・依頼も進めており、本研究課題の総括に向けた準備も進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2023年度(令和5年度)は、本研究課題がこの前代未聞の時代の前代未聞の出来事の最中に始まり一端の区切りを迎えること、そのなかで変更せざるを得なかった研究の展開をも織り込んだかたちでの、問いに対する集約を行っていく。 当初の研究計画では、学校・教室における教師らの発話に絞って、その分析から地域性理解の発生プロセスを明らかにすること目指していたが、新型感染症の拡大状況下で想定されていた通りの参与観察の実現が難しくなった。一方で、感染症の拡大プロセスは社会全体に大きな変化をもたらし、当然ながら学校の在り方そのものにも大きな変を与え、教職員や子ども達、保護者らに対して、従来の学校の在り方自体を自明のもとせずに見て考えることができる契機をもたらしている。この大きな変動期にあって、「解釈」という行為が単なる方法論としての意味以上に、ある場所に生きる人全体に関わる大事な行為として理解される必要が生じつつある。また過去の些末な記録や資料(学校教職員や申請者が残している学校の日常の写真や記録)もまた、感染症拡大という大きな出来事を越えてまったく異なる意味を生じ始めている。昨年度までの経過ではトランスナショナルという事態を含めた「移動」のなかに学校や校区を位置付ける視点、そして校区を学びと育ちの手段に閉じない「暮らし」の単位として位置付ける視点を獲得したが、これらのすでに獲得され始めている視点と共に、「表現されたもの」と理解との関係を視野に入れながら継続的な調査を行う。それと共に、現代解釈学の概観を進めることで、いったんの研究課題の集約を試みる。
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