研究課題/領域番号 |
20K13923
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分09020:教育社会学関連
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研究機関 | 大月短期大学 |
研究代表者 |
中村 知世 (冨田 知世) 大月短期大学, 経済科, 准教授 (40783725)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | トラッキング / 高校再編整備 / 地元定着 / 地方教育行政 / 高卒進路トラック / 都市大学トラック / 地元定着トラック / 地方県教育委員会 / 地方創生 / 公立高校の再編整備 / 地方の高校生 |
研究開始時の研究の概要 |
戦後、わが国の高等教育進学者数は1990年代にかけて急増した。その時、大学進学を機に地方県から大都市へと若年人口を送り続けたのが普通科公立高校であった。同じく1990年代は人口減少時代に突入し、一方で地方県では公立高校の再編整備が進んでいる。学校数縮小期にある地方県教育委員会は、当該地域の高校生の卒業後の進路及びそれに伴う地域移動を水路付けるいわゆる「進路トラック」をどのように再編していくのだろうか。「進路トラック」は大きく「都市大学トラック」と「地元定着トラック」に分かれるものと仮定した上で本研究では、各地方県教育委員会が自県の公立高校をどのトラックに配置し再編するのかを明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究は公立高校の再編整備を対象とし、その再編整備が既存の高卒「進路トラック」とどのような関係にあるのかを明らかにすることが目的である。そこで3つの課題を設定した。1つ目が大学進学をめぐる高校生の進路選択や地域移動、それに関連する教育政策史等の先行研究の整理である。2つ目は戦後から高校拡大期(1980年代ころ)までの各地方県教育委員会による進路トラックの整備に関する分析である。そして3つ目に公立高校数が本格的に縮小していく1990年代以降の各地方県教育委員会による進路トラックの整備に関する分析である。 2022年度は特に3つ目について一部の地域についてのデータが完成したため、青森県を事例として試行的な分析を行った。1985年・2005年・2019年付近時点の、学校住所データ、学校別男女別卒業者数、県内/県外就職者数、県内/県外進学者数のデータ、統廃合情報から、学校規模や配置の変化も踏まえた各進路のボリュームの変化を分析したところ、都市部の市町村に所在する高校では県内/県外進学、県内/県外就職の4つの進路をとる生徒がまんべんなく存在しており、間接的ではあるがこれらの進路に対応した多様な教育がそれなりの学校規模および配置状況の下で提供されている可能性がわかった。一方、青森県の中でも周辺地域については、県外進学に関しては縮小しており、県内就職という進路選択が相対的に主流となっている。なお、これらの研究成果についての一部は2022年教育社会学会にて発表をした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度までの研究では、本事例に対し、人口減少期の地方自治体が「高校生」という資源を「外」に出すか「内」に留めるかの調整役となり、その資源が管理されている場所である学校をどこにどのように配置し直すことにより、人口政策に取り組んでいるという側面から眺めることが可能ではないか。そしてこうした地方の動きを国家再編の動きとともにとらえるという視点を得たところであった。対して、2022年度の研究では、実際に青森県のデータを用いてこうした視点から分析を行ったが、使用した生徒の進路データの変動が、政策の効果によるものなのか、その他の要因によるものなのかを統計的に区別することが難しい状況に直面した。確かに地方教育行政は高校再編整備政策を実施しているが、その結果として、この進路データの変動に対してどのくらいの効果を有しているのかを実証するためにはさらに様々なデータを得たうえで行う必要がある。 一方で閉校や他校への統合という動きは「政策的な決定」をとらえやすい変数であるので、閉校や統合が、地域や生徒縮小率を統制したうえでどのような進路トラックを有していた高校で生じやすいのかという分析は可能になると思われる。この分析から、例えば県外に出ていく進路トラックほど閉校・統合されているということになれば、政策的に「外」のルートを絞っていると判断できる可能性が出てくる。 しかしながら、進路の変動、閉校・統合のいずれの変数においても、それが政策的な影響によるのかを統計的に判断するには限界があるということも分かった。この点を踏まえた研究計画の練り直しが課題である点が把握できた。本年度は実際に計画をしていた分析を一部データで進めることができた。他方で、計画の見直しや課題も見えたため、その点でおおむね順調な進展であると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の研究において最も重視したい点は、進路データの変動や統合・閉校の動きに対する政策的な影響をとらえるためのデータの収集および、研究方法の検討である。統計的な分析に限界があるということが2022年度の研究で判明したため、2023年度は進路変動に何らかの特徴がある高校を事例として、高校への訪問・インタビュー調査の実施を考えている。また、青森県教育委員会にも調査を依頼し、どのような高校の規模を維持し、どのような高校を統廃合すべきとしているか、その認識をインタビューしたい。 加えて2022年度の研究によって気になる知見が断片的にいくつかある。まずひとつが、青森県の場合は県外就職率が他の都道府県と比べ、高い傾向にあるが、そうした進路を輩出する高校は地理的には周辺地域に偏る傾向があったところ、近年は都市部の高校にも広がっているような動きがみられるところにある。地方から高卒で県外に就職するという動きに対し理論的な考察を深めていきたい。 さらに別の知見になるが、地方県の周辺地域の高校では少子化によって入学者の人集めに苦労をしている。その結果として、県外出身者にも門戸を開き、全国募集に踏み切る高校が出てきている。青森県にもそうした高校が存在していることがわかった。だが、そうした取り組みは全国の小規模校を競争環境に置くだけになってしまうのではないか。この点も新たなリサーチクエスチョンとして浮上しているところである。 これらの知見やリサーチクエスチョンにも目配りしつつ、2023年度は研究を進めていく予定である。
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