研究課題/領域番号 |
20K13990
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分09040:教科教育学および初等中等教育学関連
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研究機関 | 阪南大学 (2023) 甲子園大学 (2022) 四天王寺大学 (2020-2021) |
研究代表者 |
福若 眞人 阪南大学, 流通学部, 准教授 (50844445)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 自死 / 生きづらさ / 自殺予防 / 道徳教育 / 死者 / 家族 / レヴィナス / 教師教育 / 信頼できる大人 / 人間観 / 死生観 / 他者 |
研究開始時の研究の概要 |
日本では10代の自死に対し、自殺予防や援助希求能力に関する教育プログラムや、道徳教育、健康教育といった多様な実践が取り組まれている。しかし、多様な実践のなかで教師(大人)が果たす役割や、教師の人間観や死生観が子どもに与える影響について、十分に検討されていないという課題がある。本研究ではそうした課題に着目し、「信頼できる大人」として希死念慮などの生きづらさを抱える子どもに応答するためにどのようなあり方が教師に求められるのかを、哲学的・心理学的な知見を手がかりにしながら検討する。そして、「信頼できる大人」にどのような資質や能力が求められるのかを、教師教育の観点から明らかにする。
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研究実績の概要 |
2023年度は、子どもの「生きづらさ」について、教科教育の特性や授業を構成するカリキュラムの特性との連関に着目しつつ、別様に教育を捉える視座や、道徳教育やいのちの教育を通じて育む学力などをふまえた、教師や大人の人間観や教育観についての分析を進めた。主たるものとして、【A】「生かされている」という言説をめぐる原理的検討と、【B】カリキュラムを運用・構成する教育者のあり方に関する検討、が挙げられる。 【A】では、「生かされている」という言説が「特別の教科 道徳」の学習指導要領解説で用いられており、とりわけ中学校解説では「感謝の念をもつ」ことと結びつけられている点に「生きづらさ」の表明を困難にさせるという課題があることを明らかにした。加えて、中動態をめぐる議論を手がかりに自己の生や「いのち」の捉え方を「問いに付す」ことで、「生かされている」という言説への注目が思考様式を改める契機となり、「生きづらさ」と向き合い、その解消に向けた別様の捉え方を模索することにつながるという意義をもちうることを示唆した。 【B】では、「生きづらさ」や困りに応えるには、「できなさ」や「わからなさ」を否定したり、なかったことにしたりするのではない「別の仕方」としての学びや授業が求められ、自己省察による教育者の価値観や信念の問い直しと批判的な検証などが必要となる点を明らかにした。また、多様な子ども理解にもとづく「批判的リテラシー」の探究を、教科や領域を横断するカリキュラムのなかで展開していくことが、子どもの自殺予防にも寄与しうる点を示唆した。 以上の分析を通じて、本年度は自死を含む生きづらさを抱えた子どもに関わる教師や大人のあり方を問い直すための論点を、前年度から追加する形で抽出することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度以降、社会状況や所属機関の変更など研究環境の変化の影響により、聞き取りとその分析に関する研究には遅れが生じている。2023年度は、聞き取りを行うための手続きを進め、予備的な調査に着手していくことを予定していたが、研究倫理の検討などに時間を要し、調査の準備段階に留まっている。 他方で、原理的な教育観・人間観の検討については、これまでに取り組んだ道徳教育に加え、カリキュラムに関する観点から分析を進めたことで、自死や生きづらさを抱える子どもに応答する教師の資質や能力をめぐるあり方を、より多角的に問い直す視座を得ることができた。 以上の点から「やや遅れている」としたが、原理的な検討を積み重ね、聞き取りの予備的調査の着手を進めることで、生じた遅れを修正する可能性は十分見込まれると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
社会状況等の影響により研究期間を延長したため、2024年度は残された課題に取り組み、本研究の総括をおこなったうえで、今後の研究の方向性を検討する。 具体的には、自殺予防に取り組んできた教師への聞き取りのための予備的調査を試みるとともに、人間観・死生観に関する原理的な検討を継続する。とりわけ、「信頼」や「喪失」をめぐる経験にともなう主体の様相を手がかりに、「変容」という現象を教育学や教科教育の文脈からどのように捉えなおすことができるかを分析する。 以上のような研究課題に取り組みつつ、論文投稿や学会発表などを通じて得られた成果を公表することをめざす。
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