研究実績の概要 |
本研究課題は、乳児期の聴覚-運動感覚の統合過程においてアロスタシス制御 (予測的なホメオスタシスの維持) が行われる可能性について検証することを目的とし、当初の計画では、乳児期早期の児を対象に、四肢運動(研究①)および自発発声(研究②)を聴覚フィードバックし、その際の行動・生理活動の変化のプロセスや両者の相互作用を検討する予定であった。しかし、令和2年4月以降のCOVID-19の感染拡大により、対面での乳児実験の実施が困難な状況となり、新規データの収集が出来ない状況が続いたことから、事前にデータ収集を終えていた課題①の分析に専念した。 具体的には、申請者が2018-2019年度に取得したデータ(生後3ヶ月児40名分のデータ; 新屋ら, 2019 日本赤ちゃん学会)を対象とした分析をおこない、3ヶ月児は四肢運動の可聴化経験を通じて、運動頻度の増加やリズムの変化を示すことに加え、聴覚フィードバックに対して予期的に心拍数の抑制を示すことを明らかにした。この結果は、聴覚-運動相互作用の出現には、心血管のホメオスタシスに関わる予期的な調節(アロスタシス制御)が暗黙のうちに行われていることを示唆している。このような予期的な心血管系の制御に関する知見は、より洗練された目標志向的行動および音楽的行動の発達を理解する上できわめて重要だと考えられる。 本成果や関連する成果は、実験神経科学の国際誌等に掲載されたほか(e.g., Shinya, Oku, Watanabe, Taga, & Fujii, 2022 Exp Brain Res)、国内外の学会(日本赤ちゃん学会、生理心理学会、ICISなど)や学術書籍(発達保育実践政策学のフロントランナーなど)においても報告をおこなった。
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