研究開始時の研究の概要 |
本研究では, 楕円型微分作用素のFredholm指数に対するAtiyah-Singerの指数定理にはじまる指数理論の研究, その中でも特に非可換幾何学とよばれる, 作用素環論の手法を用いる立場からの研究を行う. 具体的な目標は以下のとおりである. 第一に, 指数やスペクトルの「局所化」が現れる様々な状況に対して統一的なアプローチを与え, 数理物理学や微分幾何学への新たな応用を見出す. 第二に, 測度付き距離空間の収束の理論の観点からの研究と組み合わせることで, 非可換幾何学と他分野との融合の可能性を見出すことを目指す.
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研究実績の概要 |
代数トポロジーと数理物理学に関する研究を進めた. 本年度は主に, Topological Modular Forms (TMF)と呼ばれる一般コホモロジー理論に関する研究を行った. 一般コホモロジー理論TMFは, 現代ホモトピー論の「金字塔」ともいえる, 純粋数学的に重要な研究対象である. 一方, 「TMFが2次元超対称場の理論を分類する」というStolz-Teichner予想を通じて, 理論物理学とも深く関係している. 私は昨年度, 物理学者の立川裕二氏との共同研究において, TMFを用いることで, 「ヘテロティック弦理論の量子異常が存在しない」, という物理的命題に対する数学的証明を与えた. 本年度は立川氏とともに, それを深化させる研究を行った. この「量子異常の消滅」(物理学的事実)と「TMFのAnderson自己双対性」(純粋数学的事実)が実は深く関係していることを証明した. Anderson自己双対性はホモトピー論の深い結果であり, この事実に物理的解釈を与えたのは, 純粋数学的な立場から見ても非常に面白い結果である. また, この結果を応用し, TMFの非自明なねじれ元やpower operation等, 今まで純ホモトピー論的な証明しか知られていなかった様々な構造に対して, 微分幾何的証明を与えた. この結果に関しては現在論文執筆中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
TMFに関する研究は, 当初代数トポロジーを物理学に応用するという動機から始めた研究であったが, 本年度の研究により, TMFのAnderson自己双対性などの構造に新しい理解を与えるという, 純粋数学的に面白い結果が得られたため.
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