研究開始時の研究の概要 |
本研究は非圧縮理想流体の運動方程式であるオイラー方程式の数学解析を行うものである. 3次元オイラー方程式は近年凸積分の手法により乱流についての予想が解決される重要な進展があったが, 発展方程式的手法による解析は進んでいない. 研究代表者阿部は近年, 軸対称解に焦点を当てこの問題に取り組み, 渦輪と呼ばれるオイラー方程式の進行波解が重要な役割を果たすことを発見した. 渦輪は非線形波動方程式の観点からはソリトンのようにも思えるが, その性質は未知である. 本研究では進行波解の基本的な性質である軌道安定性に焦点を当て, 厳密解であるラムの渦対・ヒルの球形渦輪を含む渦対・渦輪に対して渦法を用いて軌道安定性定理を確立する.
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研究実績の概要 |
最終年度はオイラー方程式の斉次解についての研究を行った. 斉次解は定常問題の自己相似解で, 準線型方程式の第二種自己相似性の解明に重要である. またオンサガー予想や, グラド予想とも関係した問題である. 斉次-a次解はベルトラミ解または軸対称解ならば0<a<2の範囲で存在しないことがシブドコイ(2018)により示されていたが, 本研究では斉次性がa<0または2<aとなる軸対称解が存在することを示した. この研究成果はArch. Rational Mech. Analから出版された. 年度の後半は2次元層状流の方程式である非粘性ブジネスク方程式の斉次解の共同研究を行い, プレプリントを纏めた. この他には領域が球の場合に第一固有値に付随する線形フォースフリー場(テーラー状態)が各軸に対して軸対称なもの3つしかないことをポロイダルトロイダル分解により示した. この結果はチャンドラセカールの軸対称フォースフリー場の軌道安定性についてのプレプリントに付録として加筆した. これらの研究成果はチェジュ, ソウルで行われたオイラー方程式の研究会で講演した. またオイラー方程式, MHD方程式についての国際ワークショップを共催し, 国内国外の研究者から情報収集を行った. 研究期間全体を通じて実施した研究の成果は(1)渦対, 渦輪の軌道安定性, (2) ベルトラミ流の存在と剛性, (3) フォースフリー磁場の安定性, (4) 定常オイラー方程式, ブジネスク方程式の斉次解の存在と非存在である. 当初の研究目的であったオイラー方程式における渦輪の存在と安定性についての研究成果以外に, 関連した問題であるフォースフリー磁場や自己相似解についての研究成果が得られた.
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