研究課題/領域番号 |
20K14368
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分12040:応用数学および統計数学関連
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研究機関 | 国立社会保障・人口問題研究所 |
研究代表者 |
大泉 嶺 国立社会保障・人口問題研究所, 国際関係部, 第三室長 (80725771)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 地域間移動 / タイプ別再生産数 / 確率制御方程式 / 固有システム / 異質性 / 個人差 / 環境変動 / 地域間移動の少子化への影響は20代まで / 30代以降は都市部の出生率の影響が大きい / 一般化レスリー行列の安定例分布の数学的構造の解明 / 0歳繁殖価の数学的構造の解明 / 構造化人口モデル / 人口減少 / 推移行列モデル / マルコフ過程 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は,国勢調査に基づき2010年を境に人口が減少局面に転じた日本において,マルコフ行列モデルを用いてその減少に影響が大きい要素(:地域間移動率、地域毎の出生・死亡率)を特定することである.具体的な方法は,ある地域からある地域への移動率を含めた年齢構造を持つモデルを構築し,最大固有値の偏導係数が最大となる行列要素を解析することで,人口減少に影響を与えるそれらの地域特性を解明することである.
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研究実績の概要 |
日本は2010年以降,出生率の低下,地域間移動,地域的特性により引き続き人口減少に直面している.この研究では,推移行列モデルを用いて日本の人口動態をモデル化し,モデルの数学的構造から人口減少の国内要因を定量的に評価した.これを実現するために,多地域レスリー行列モデルを構築し,行列要素を使用して再生価値と安定年齢分布を表現する方法を開発した.この方法により,個人とその祖先の移住履歴の系譜図を使用して数学的指標を解釈することができた. さらに,私たちの方法と感度分析を組み合わせることで,地域別出生率と地域間移住率が日本の人口減少に及ぼす影響を分析した. われわれは,30歳未満の人々に対して,大都市圏から高い出生率を持つ県への移住率に対する人口増加率の感度が最も高いことが分った. さらに他の地域と比較して,都市部の出生率は30歳以上の人々に対してより高い感度を示した.この特徴は2010年および2015年と比較して堅牢であるため,近年の日本における独特の構造であると言える.また,不可約非負行列人口モデルにおいて再生価値および安定年齢分布を行列要素を使用して表現する方法も確立した. これにより,今後全ての地域における人口構造において,先祖や子孫のルーツを解析するツールを 提供する事が出来るであろう.さらに,都市部および非都市部での出生率および移住率が人口減少社会で各年齢層の人口増加率に及ぼす影響を数値的に示した.この成果を学術誌を通して発表することが出来た.また,この研究の背景にある異質性を加味した人口動態の数学的理論をまとめ,書籍として出版することが出来た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍によって対面による学会、国際移動の制限などの要因によって共同研究者との議論の場が減った. また,Zoom等のweb会議用ソフトウェアは利用時間に制限があったり,インターネット環境によっては接続が上手くいかないこともしばしばあった,こうした環境が3年にわたり続いたことで研究の進捗状況に影響を及ぼしたことは否めない. また,国勢調査の仕様が若干変更があったため,2020年データとそれ以前のデータとの整合性を取るのに手間取った経緯もある. とはいえ,2015年の国勢調査のデータを元にした,一般化レスリー行列による日本の人口減少構造の解析について公表できた事が,本年度の大きな成果である. この成果によって,人口減少に伴う国内移動の効果や地域別の出生率の効果は2010年と2015年のデータでほぼ同一の年齢構造で推移してきた事が示せた. このモデルを考えるに当たって,異質性を考慮した構造化人口模型の理論に関してもこの3年間の成果および,それ以前から蓄積した研究成果を書籍に出来た事ももう一つの大きな成果といえよう. 非線形人口動態モデルに制御理論を取り入れる事で,生活史進化と個体群動態の統一的な方程式を導くことが出来た. これは,個人差や地域差がある人口構造野中で適切な人口政策の意思決定に応用出来る可能性だけでなく,生物の進化を解析する事も出来る理論となるであろう. 2020年の国勢調査の公表と昨年末に公表された都道府県別生命表のデータがあるので,現時点は2015年の解析の改訂と国際移動などを考慮した新たな解析手法の構築を行っている. 本年が最終年度であることから基礎的な解析は今年のうちにまとめたい所存である.
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今後の研究の推進方策 |
まず,2020年の国勢調査および生命表等の政府統計のデータが公表されている. 2010年,2015年の解析プラグラムをこれらのデータで更新することで人口減少の10年間の変化を解析する事が喫緊の課題である. 具体的には2020年データを用いて一般化レスリー行列を構築し,感度分析およびタイプ再生産数などを解析し,以前のものと比較する点である. また,日本における外国人は2015年時点では300万人ほどであり,総人口の2%しかないこと,また年齢階級別、都道府県別の国際人口移動に関する十分なデータは無い. そのため、人口減少への影響は限定的と判断し,これまでの研究では国際移動を無視してきた. しかし,この外国人の動向を無視した一般化レスリー行列は逆に,外国人の流入の影響を解析する上で好都合であることがわかった. 一定数流入する外国人は,人口減少にある程度歯止めをかける役割を果たすことは数学的に示すことが出来る. そのとき,どの地域にどの年齢の外国人が一定数入るかによって将来的な日本の人口は変わるであろう. その傾向はこれまで解析に用いた外国人の動向を無視した一般化レスリー行列の構造が鍵を握る. 外国人の動向で無視されたものは日本人のもの含め国際移動である. つまり,一定数外国人が流入すると仮定するならば,国内における影響は全て一般化レスリー行列の傾向に依存すると考えられる. これにより,国際移動に関する間接的な解析方法の構築が次の課題として浮かんだ. またこれまでの研究で推移行列の固有システムを行列の成分によって表現する方法も開発しており,これを無限次元の理論に拡張する事も長期的な課題として存在する. これが可能となれば,個体群動態の理論に遺伝や,世代を超えた進化の解析まで出来る理論が出来ると期待される.
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