研究課題
若手研究
レーザー光源技術や時間・空間分解測定法の急速な発展により,固体物性の高速光制御に関する研究は新たな局面を迎えている。本研究では,時間的・空間的な階層性の観点から強相関多体系において光照射により誘起されるダイナミクスの理論解析を実施する。これによりナノメートル程度の微視的量子状態とサブマイクロメートル程度の半巨視的秩序状態の関係を明らかにし,物性の新たな光制御法の構築を目指す。
研究期間全体を通じて,主に以下の成果が得られた。(1)スカラーカイラリティの光制御。反転対称性を持つ強磁性近藤格子模型における実時間ダイナミクスを解析し,光照射によって強磁性状態からスピンスカラーカイラル状態や120度ネール状態への磁気転移が生じることを見出した。これまで,反転対称性を持たない系ではレーザーの加熱効果等により磁気スキルミオンが生成されることや,反転対称性を持つ系でも円偏光とカイラリティが線形に結合することが知られていたが,本研究により,直線偏光でもカイラリティが誘起され,光強度に対して非摂動的な振る舞いをすることが明らかになった。(2)反強磁性体のネールベクトルの光制御。ある種の反強磁性体において,電流印加や光パルス列の照射によってネールベクトルの方向を制御できることが知られていたが,単一パルスを照射した場合の高速ダイナミクスを明らかにすべく,反強磁性ディラック半金属を対象として理論モデルを構築し,電子構造と磁気構造が結合したダイナミクスの解析を行った。結果として,ネールスピン軌道トルクと磁気異方性により生じるトルクの協調によって高速なネールベクトルの回転が生じ,これに伴ってディラック点のエネルギーギャップも変調されることを明らかにした。この成果は昨年度までに論文として出版されている。(3)光誘起高速現象の解析。上記の研究と並行して,強誘電体における光第二高調波発生について,テラヘルツパルス照射による実時間変調の解析を行い,高調波強度とパルス強度の間に位相のずれが生じうることを明らかにした。また,高次高調波発生の素過程について実時間領域での解析を行い,エネルギーバンド構造を反映した新たなエコー現象を見出した。補助事業期間を延長した最終年度は主に研究成果の発表に注力し,(1)や(3)の成果がPhysical Review B誌に掲載された。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (28件) (うち国際学会 9件、 招待講演 2件) 備考 (3件)
Physical Review B
巻: 109 号: 4
10.1103/physrevb.109.l041303
巻: 108 号: 10
10.1103/physrevb.108.l100407
巻: 108 号: 24
10.1103/physrevb.108.l241118
Physical Review Research
巻: 4 号: 4 ページ: 043155-043155
10.1103/physrevresearch.4.043155
npj Computational Materials
巻: 7 号: 1 ページ: 171-171
10.1038/s41524-021-00641-2
Journal of the Physical Society of Japan
巻: 89 号: 9 ページ: 095001-095001
10.7566/jpsj.89.095001
210000158390
Phys. Rev. Lett.
巻: 124 号: 15 ページ: 157404-157404
10.1103/physrevlett.124.157404
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2022/12/press20221201-03-echoes.html
https://www.tohoku.ac.jp/en/press/predicting_new_quantum_echoes.html
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2020/04/press20200420-01-kocho.html