研究課題/領域番号 |
20K14476
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
鈴木 渓 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究職 (40759768)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2020年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | カシミール効果 / 場の量子論 / クォーク物質 / カイラル密度波 / ワイル半金属 / アクシオン電磁気学 / マグノン / 非エルミート系 / 有限体積効果 / 格子場の理論 / 磁性体 / ディラック半金属 / フォノン / 格子フェルミオン / トポロジカル絶縁体 / 量子色力学 / 格子QCD / ディラック電子系 / ハドロン / カイラル対称性 |
研究開始時の研究の概要 |
量子色力学(QCD)はクォークとグルーオン及びそれらを構成要素とするハドロンの性質を記述するための基礎理論である。有限温度・有限密度のような極限環境におけるQCDは、カイラル対称性の自発的破れやカラー閉じ込めの問題と関連しており、これまで盛んに研究されてきた。 本研究では、新たな研究の舞台として「極端な有限体積系」(例えば、非等方体積や極端に小さな体積)に焦点をあて、そのような環境におけるQCDやハドロン物理を解明するための理論研究を行う。特に、QCD相転移現象とカシミール効果の関係や有限体積系におけるハドロンの性質を明らかにし、将来的な格子シミュレーションや実験研究に対する示唆を与える。
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研究実績の概要 |
カシミール効果は、二枚の平行板を微小な距離だけ離して置いた際に生じる引力の発生としてよく知られている。通常の光子場から生じるカシミール効果は理論的・実験的に一定の理解が得られてきたが、その他の量子場から生じる類似現象を探索することも重要である。2023年度は以下の(1)-(3)の成果が得られた。 (1)高密度クォーク物質では、カイラル対称性の回復に伴う転移点近傍の密度領域で、秩序変数が空間的に非一様となる可能性があり、その候補の一つが「二重カイラル密度波(DCDW)」相である。本研究では有限密度領域のクォーク場から生じるカシミール効果の性質を定量的に予言した。特に、クォークの分散関係の「ワイル点」構造に起因して、物質の厚さに依存する物理量の振動現象を予言した。この成果は原著論文としてまとめられ、投稿中である。 (2)ワイル半金属の内部では、電磁場の運動方程式は時間反転または空間反転対称性の破れによって修正されており、いわゆる「アクシオン電磁気学」を用いて記述される。この状況でのカシミール効果は遠距離で斥力となる可能性が先行研究で指摘されており、本研究では格子正則化と呼ばれる手法を用いてもこの振る舞いが導出できることを示した。この成果は原著論文としてまとめられ、Physical Review Dに掲載された。 (3)スピン歳差運動の減衰(ギルバート減衰)は磁性体が固有に持つ性質である。これは、マグノンのエネルギーと寿命にも影響しており、マグノンのハミルトニアンに対する非エルミート項として記述される。本研究では酸化ニッケル(II)薄膜内部のマグノン場から生じるカシミール効果に対して、ギルバート減衰が及ぼす影響を定量的に予言した。特に、分散関係に「例外点」構造が存在する場合に生じる特異な現象を予言した。この成果は原著論文としてまとめられ、npj Spintronicsに掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2020年度に開発した「格子正則化に基づくカシミール効果の導出」手法を応用することにより、2021-2022年度は薄膜状の固体物性系において電子場/マグノン場/フォノン場などに起因して創発するカシミール効果の理論的解明を行った。当該年度(2023年度)は、これまで得られた知見を高密度クォーク物質へと応用することで、物性物理と高エネルギー物理の類似点・相違点が相補的に整備された。クォーク系は固体物性系とは異なり、通常は格子構造を組まないため、必ずしも格子正則化を用いる必要はないが、これまで知られていた正則化手法による導出と比較するための相補的な手法として汎用性が高いことや、格子上の数値シミュレーションで避けることのできない離散化誤差に対する定性的な示唆を与えるという意味でその理論的枠組を確立した意義は大きい。このような研究経緯は研究開始当初に具体的に想定していたものではなく、この意味で計画以上の進展と評価する。 さらに、当該年度の成果として、DCDW相やアクシオン電磁気学のような比較的複雑な分散関係によって特徴付けられる系や複素固有値構造を持つ非エルミート量子力学系に対して格子正則化手法が適用可能であることを具体的に示したことや、薄膜状物質の膜厚に依存した物理量の振動現象の包括的な理解が得られたことも当初の計画以上の進展と言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果として、低密度から高密度領域までのクォーク物質内部においてクォーク場から生じるカシミール効果の典型的な性質についてある程度の理解が得られ、DCDW相に起因して生じる特異な振動現象を予言した。有限密度クォーク物質に関連する今後の研究テーマとしては、より高密度領域で実現することが予想される「カラー超伝導」相やDCDW相以外の非一様相が実現した場合に何が起こるか調べることがある。さらに、外部磁場をかけることによりDCDW相が安定化することが先行研究で予想されているため、カシミール効果の磁場依存性を調べることも興味深い。特に、励起状態が存在する系において、励起状態がカシミール効果に対してどの程度寄与しているか(言い換えると、基底状態と比べて励起状態の寄与がどの程度抑制されているか)を検証することはカシミール効果の本質的な理解の為に重要な問題であり、これに関連して、磁場中で生じる無限個のランダウ準位構造がカシミール効果にどのように寄与しているかを理解することも重要である。
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