研究課題/領域番号 |
20K14525
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分16010:天文学関連
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研究機関 | 弘前大学 (2023) 呉工業高等専門学校 (2020-2022) |
研究代表者 |
野村 真理子 弘前大学, 理工学研究科, 助教 (50756351)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | ブラックホール / アウトフロー / 活動銀河核 / 超臨界降着流 / 超巨大ブラックホール |
研究開始時の研究の概要 |
宇宙に存在するほぼ全ての銀河中心には,太陽の100万倍から10億倍もの質量を持つ超巨大ブラックホールが存在することが知られている.しかしながら,その成長・進化過程は未解明である.本研究課題は,数値シミュレーションによる理論研究と観測との比較によって,ブラックホールへと落下するガスが形成する円盤,およびそこから噴出する円盤風の性質を解明し,ガス降着によるブラックホールの成長過程に制限を与えようとするものである.
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研究実績の概要 |
ブラックホールを取り巻く降着円盤からのガス噴出現象を包括的に理解し,超巨大ブラックホール形成への影響を理解するため,本年度は(1)超臨界降着流を持つ恒星質量ブラックホールから噴出する円盤風,(2)エディントン限界未満の降着率を持つ超巨大ブラックホールからの円盤風,(3)超巨大ブラックホールにおいて,降着円盤より外側(0.001-1パーセクスケール)で噴出する円盤風,についての研究を行った。 (1)10太陽質量のブラックホール周囲の超臨界降着流の遠方領域から発生するラインフォース(金属元素が紫外光を束縛-束縛遷移吸収する際に受ける輻射力)駆動型円盤風のシミュレーションを実行した。 質量降着率の増加に対して,UV光で明るい円盤面積の増加率が(超巨大ブラックホール+亜臨界降着率を仮定した場合に比べて)低いため,質量降着率をエディントン限界の1000倍としても,円盤風の質量損失率は~1%以下に抑えられることがわかった。したがってこの円盤風はブラックホール近傍への超臨界降着を妨げない。 (2)活動銀河核アウトフローのより現実的な理論モデルとして,降着円盤の周期的な光度変動を考慮したラインフォース駆動型円盤風のシミュレーションを行った。その結果,活動銀河核で観測される超高速アウトフロー検出の有無が時間に依存するものであることを理論的に明らかにした。 (3)降着円盤スケールで発生する円盤風が母銀河に影響を与え得るかどうかを明らかにするには,円盤から銀河スケールに至る広い空間スケールの計算が必要不可欠である。その最初のステップとして,本研究では降着円盤より外側(0.001-1パーセクスケール)に着目した輻射流体シミュレーションを行った。その結果,ダスト円盤に対する輻射加熱と輻射力により,アウトフローが形成されることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に計画を変更し,円盤風の輻射流体シミュレーションコードには大きな変更を行わず,これまでの研究で申請者が用いていたコードをベースに使用して,様々な環境下(ブラックホール質量や質量降着率,降着ガスの金属量)で発生する円盤風の包括的理解と母銀河-超巨大ブラックホールの共進化の解明を目的とした研究を進めた。 R3年度には宇宙初期(低金属量)の種ブラックホールから,現在(太陽金属量以上)の超巨大ブラックホールまでに対応する広いパラメータ空間におけるラインフォース駆動型円盤風の理論研究について成果を査読論文の形で公表した. さらに降着率について広いパラメータレンジを扱うため,超臨界降着流を含む円盤風の降着率依存性を考慮した研究に着手し,学会等で成果を公表した(R4年度)。この成果は現在論文準備中である。 R5年度にはこれに加え,当初の計画を越えて,円盤の光度変動を考慮した現実的モデルの構築や,より大きな空間スケールの円盤風の発生機構解明などの研究に着手し,前者は学会発表,後者は学会発表および査読論文の形で成果を発表した。 X線観測衛星XRISMの本格運用がR6年度となったことや,本研究課題採択直後の新型コロナウイルス流行期の影響があり,観測との比較についての研究や,国内外へ向けた成果発表はまだ十分とは言えないが,その間に理論研究を発展させることができたため,研究計画は概ね順調に進んでいると言える.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方策として,まずは超臨界降着流におけるラインフォース駆動型円盤風シミュレーションの結果をまとめ,査読論文化する。また,母銀河-超巨大ブラックホールの共進化の解明を大目標とした広い空間スケールの研究も引き続き実施する。さらに,本課題延長後の最終年度に向けて,国内外での研究成果の発表にも力を入れる。 R5年度には,降着円盤より外側(0.001-1パーセクスケール)に着目した輻射流体シミュレーションを実施し,ダスト円盤に対する輻射加熱と輻射力により,アウトフローが形成されることを明らかにした。しかしながら実際にはこの領域には降着円盤領域で発射されたラインフォース駆動型円盤風(Nomura et al. 2021)が流入し,伝搬しているはずである。そこで0.001-1パーセクスケールにおけるラインフォース駆動型円盤風の伝搬と,さらにそこで発生するダスト駆動型のアウトフローを考慮したシミュレーションを実行する。その結果を元に,ブラックホールの成長率や星間空間への運動量・エネルギー放出率を見積もり,円盤スケールのアウトフローが母銀河に影響を与えるか否かを解明するとともに,活動銀河核において様々なスケールにわたって発生するアウトフローの包括的理解を目指す。 さらにXRISM衛星の本格運用に備えて,観測との比較の準備(天体の条件に合わせた計算の実行や,スペクトル計算による時間変動の調査)も引き続き進めていく。
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