研究課題/領域番号 |
20K14556
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分17020:大気水圏科学関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
大貫 陽平 九州大学, 応用力学研究所, 助教 (70804201)
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研究期間 (年度) |
2022-12-19 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 回転成層流体 / 深海乱流 / 直接数値シミュレーション / 内部重力波 / 不安定 / スペクトル解析 / 楕円不安定 / 慣性重力波 / 乱流 / 数値シミュレーション / 海洋物理学 / 数値流体力学 / 非平衡統計力学 |
研究開始時の研究の概要 |
全球深層循環を決定づける鉛直混合過程の解明を目指し、乱流解像に特化した新しい数値モデルを開発する。従来の技術では捉えきれなかった、大規模な流れが不安定化して細かな擾乱を生み出す過程を、モデル領域の変形によって効率的に計算する。さらに、励起された乱流エネルギーが散逸スケールまでカスケードする様子を、スペクトル法で高精度に再現する。 開発したモデルを用いて、パラメトリック不安定・シア不安定・対流不安定・対称不安定といった、種々の乱流励起メカニズムを包括的に検証する。微細乱流と大規模な流れ場の関係を明らかにすることでで、大循環モデルに組み込むべき深海混合パラメタリゼーションの精度向上に貢献する。
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研究実績の概要 |
海洋のサブメソスケール渦を想定し、回転成層流体において楕円型の流線構造をもつ定常流の中に励起される内部重力波の砕波過程に関する論文を完成させた。この論文は、フランスの研究グループとの国際共著論文として出版した(Onuki, Joubaud and Dauxois 2023)。本研究プロジェクトで開発を進めている領域変形型のフーリエ・スペクトルモデルを用いた研究成果の一つである。既に出版済みの内部重力波のパラメトリック不安定に関するシミュレーション研究(Onuki, Joubaud and Dauxois 2021)と合わせ、海洋乱流の新しい数値解析手法の有用性を実証する研究として位置付けられる。 次の問題設定として、回転成層流体における内部慣性重力波の小スケール不安定を対象としたサブテーマを、インド工科大学との共同研究として着手した。乱流の直接数値解析に先立ち、フロケ理論に基づく線形安定性解析を実施した。この解析は、非線形モデルとは異なり、幅広いパラメータ領域に渡る計算が短時間で可能である。緯度や成層強度に依存した不安定の性質の変化について、乱流散逸率や混合係数といった海洋モデルの高精度化に結びつく、重要な知見を得ている。 さらに、フロケ理論の計算に用いる線形化された回転成層流体の支配方程式に対し、トポロジカル指数の一種であるChern数の計算を行った。その結果、外部境界が存在する場合に、境界に捕捉されて伝わる波動モードの数が、内部領域のトポロジカル指数と対応することを確かめた。海洋の側壁付近における波と乱流の相互作用を議論する際に有益な情報であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画時点で想定していた、領域変形スペクトルモデルの基本となるFortanの計算コードは既に完成している。東京大学情報基盤センターの大型計算機上で、組み込みの高速フーリエ変換の並列計算ライブラリを用いた計算に適したチューニングまでを進めた。それを用いた計算結果は、J. Fluid Mech.とJ. Phys. Oceanogr. といった、地球流体力学や海洋物理学で権威ある国際誌から出版をしている。データの三次元可視化も、大型計算機上でバッチ処理で行い、明瞭な三次元アニメーションを作成して論文と合わせて公開した。さらに計算コードはGitHubで自由にダウンロードできるようにしてある。計算の基本原理について、京都大学数理解析研究所の研究集会で招待講演の形で報告をした。その内容に関する日本語記事が、今後研究所のウェブサイトから公開される予定である。本研究は国際的な研究プロジェクトに発展しており、既に報告済みのフランスのリヨン高等師範学校との共同研究に加え、インド工科大学マドラス校との共同研究に着手している。非線形計算に先立つ線形解析を、現地の大学院生が担当することにより、今後のシミュレーションのためのパラメータ選定に有益な知見を得ることができた。さらに、本研究で対象とする回転成層流体の方程式に対し、トポロジカル指数の新しい計算方法を発見して、その内容を国際共著論文としてまとめるなど、当初の想定を越えた学問領域の広がりを実現している。一点、中国の天津大学の研究者との共同研究として実施したシミュレーションで、期待した結果が得られず、この問題を解決するために新しい計算方式のモデル開発に着手をした。この点は【今後の研究の推進方策】で詳述する。
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今後の研究の推進方策 |
まず、インド工科大学マドラス校の研究者と共同で、回転成層流体における内部慣性重力波の局所不安定に関するサブテーマを進める。現地協力者が実施している線形安定性解析の結果が、論文としてまとまり次第、本研究で開発した数値モデルコードを活用した非線形シミュレーションを実施する。特に、内部潮汐のパラメトリック不安定が引き起こす乱流混合について、その混合効率の値が緯度や成層強度に依存してどのように変化するのかを、定量的に明らかにする。 次に、天津大学の研究者と共同で、海洋中の近慣性波から高周波数内部重力波へのエネルギー変換機構に関する研究を進める。このサブテーマは、東シナ海における海洋内部の観測データに見られる現象を再現することを目指して着手した。当初、本研究で開発した三重周期境界条件モデルで検証可能であると考えたが、予想に反し、シミュレーション結果において近慣性波から高周波への顕著なエネルギー変換は見られなかった。このことは、海底の境界条件をモデルに組み込んでいないことが原因と考えられる。そこで、海底の地形上における近慣性波成分から高周波成分へのエネルギー変換を記述する新しい方程式体系を導き、それを用いた数値シミュレーションを実施することとした。既に、一般化ラグランジュ平均理論と波線追跡理論に基づく定式化を概ね完了しており、大型計算機上での試験的な計算を進めている。今後は、海洋の実測データと照らして計算のパラメータを調整し、船舶観測の結果と整合するシミュレーション結果を得ることを目指す。
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