研究課題/領域番号 |
20K14574
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分17040:固体地球科学関連
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研究機関 | 京都大学 (2022-2023) 東京大学 (2020-2021) |
研究代表者 |
大谷 真紀子 京都大学, 理学研究科, 准教授 (80759689)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | データ同化 / 4DVAR / EnKF / 粘弾性変形 / 断層すべり / アジョイント法 / 余効変動 / 余効すべり / 地殻変動 / 粘弾性 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では逐次データ同化手法の一つであるEnKF法を巨大地震発生後の地殻変動データに対して適用することで、プレート境界上の余効すべりと地下の粘弾性変形をそれぞれ区別して推定し、さらにその将来の発展を予測する手法を開発する。従来法である運動学的逆解析と異なり、データ同化ではそれぞれの変形の物理機構に依拠した、より尤もらしい解が期待される。手法開発の後、模擬データを用いた数値実験や従来法との比較による性能検証を行う。
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研究実績の概要 |
本研究では、巨大地震発生後に観測される余効変動データから、断層面上で起こる余効すべりと地下深部の粘弾性領域で起こる粘弾性変動の両者を切り分け、変動の推移及び物性パラメタを推定することを目的とした手法開発を行う。推定手法にはデータと数値モデルの統合を行うデータ同化手法を用いる。データ同化手法には大きく分けて、逐次データ同化と変分法の二つの手法が存在する。EnKFは四次元変分法(4DVAR)に比べて導入が容易であるため、本研究ではこれまでに巨大地震の発生による応力擾乱によって駆動される地下の粘弾性変形問題において逐次データ同化手法であるEnKFの適用可能性を調べ、その有効性を数値実験で確認した。一方、四次元変分法であるアジョイント法にはEnKFよりも少ない計算量で行えるなどの利点がある。非線形モデルにおいては、これらEnKF, アジョイント法と用いる手法が違えば、推定のされ方や推定結果も異なってくる。これら手法による推定結果の違いを調べるために、断層すべり問題として既にEnKFを適用した先行研究が存在する、繰り返すゆっくりすべり(SSE)問題に対してアジョイント法の適用を行い、数値実験を実施した。一周期分のSSE地殻変動データに対して、断層の初期摩擦強度分布を更新しながらアジョイント法による摩擦パラメタ推定を繰り返し行う二段階反復法を新たに考案し、断層強度分布及びパラメタを推定することに成功した。また本手法はSSE半周期分のデータを用いた際でも有効であり、SSEの周期を推定できることを示した。本年度は、地震発生後の粘弾性応答に対する地表面変動について、EnKF及び4DVARのそれぞれを用いて粘性率・変形の推移を推定する数値実験を行い、これら同化手法による推定結果の違いを調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
データ同化では時間発展モデルに対して、データを尤もよく説明するモデル変数・パラメタの推定を行うが、断層すべり問題においては限られた期間の地表面変位をよく説明する解は複数存在することをこれまでに本研究で明らかにした。巨大地震後の余効すべりや繰り返すSSEなどこれまで既にデータ同化手法が適用されている問題においても同様である可能性がある。 昨年度までに、断層すべり問題としてSSEを対象に、EnKFと4DVARの二つの手法を比較したが、4DVARの適用の際にはデル変数・パラメタの両者を同化変数として扱うことは困難であった。本研究ではある適当な初期摩擦強度に対して摩擦パラメタのみを同化対象とした4DVARを行い、その結果現れた初期値と同じすべり速度に対する剪断強度の値を新たに初期摩擦強度として設定し、再度摩擦パラメタのみを同化対象とした4DVARを繰り返す反復法を考案した。この操作は、同じ断層すべり速度・摩擦強度が再び現れるというSSEの繰り返す性質を条件として加えることに相当する。 本年度は、巨大地震後の地下の粘弾性媒質における粘弾性応答においてEnKFと4DVARを比較した。弾性層と粘弾性の2層媒質を仮定し、2次元モデルを粘弾性変形の時間発展モデルとして境界積分方程式法をベースとしたLambert and Barbot(2016)の方法を採用してEnKFと4DVARをそれぞれ適用し、巨大地震後の地殻変動から粘性率を求める数値実験を行った。粘弾性媒質にMaxwellモデルを用いた場合において、両者ともに粘性率を求めることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
今後、4DVAR, EnKFによる粘弾性変形の推定について、非一様な粘弾性媒質や非線形モデルにおいて両手法の違いを調べる。また、地震によって励起された粘弾性変動及び余効すべりを同時に模擬する時間発展モデルに、データ同化手法であるEnKF法及びアジョイントを適用する。過去に行ったEnKF法で粘弾性変形の変形・粘性率を推定する数値実験においては、粘弾性変形による地表面の変位量をデータとして、データ同化を行った。一方余効すべりはその時間発展モデルの性質から、モデルと直接比較可能な量は地表の変位速度である。実際の地殻変動データを利用する際には、変位量をデータとする方がデータをそのまま使えるので適しており、余効すべりによる変動の同化部分に工夫が必要である。これまでの研究により、断層強度に関する条件の追加が断層すべりの推定の改善に重要な役割を果たすことがわかった。余効すべりにおいても同様に断層強度に条件を課すことができるかを考え、同化手法に導入する。手法構築の後、シンプルな設定での模擬データを用いた数値実験を行い本手法により断層面上の余効すべり及び粘弾性変形の同時推定が可能であるかを調べる。本研究に用いた粘弾性時間発展計算手法は、粘弾性領域において不均質な粘性構造を扱うことができる。どのような構造が推定可能であるか等手法の適用範囲を調べる。ただし断層すべりと粘性変形とのトレードオフが予想されるため、温度構造等新たな条件を導入する等の工夫を行うことも考える必要がある。
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