研究課題/領域番号 |
20K14575
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分17040:固体地球科学関連
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
永冶 方敬 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (10795222)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
|
キーワード | アンチゴライト蛇紋岩 / 前弧マントルレオロジー / 結晶軸選択配向(CPO)形成機構 / 異方性 / 変形機構 / 脱水分解実験 / ブルーサイト / トポタキシー |
研究開始時の研究の概要 |
アンチゴライト(Atg)は沈み込み帯のウェッジマントル(WM)の含水化によって広い形成と分布が予想される蛇紋石鉱物である。これまでこの蛇紋石鉱物の結晶方位測定の結果、Atgの結晶軸はWMで強く配列する一方、その配列パターンは複数種類存在している可能性が指摘された。 本研究は国内外の複数地域から天然の蛇紋岩試料を採取し、これらを信頼性の高い同一の分析手法・解析手順で測定することでAtgの結晶軸の配列パターンを限定し、それらの形成メカニズムを明らかにすることを目的とする。これによってAtgの配列パターンを決定づける因子を明らかにし、異なる配列パターンが形成される仕組みを説明するモデルの構築を目指す。
|
研究実績の概要 |
沈み込み帯における沈み込む海洋プレート上方の上部マントルを研究対象領域とする。この領域はウェッジマントルと呼ばれる。ウェッジマントルはかんらん岩で構成されるが、沈み込んだプレートから放出される水流体によって含水化することで、蛇紋石鉱物を主体とする蛇紋岩に変化する。含水化したウェッジマントルを構成する蛇紋岩では、蛇紋石種の中でもアンチゴライトと呼ばれる鉱物で主に構成される。そのため、含水化したウェッジマントルの力学的および水理的な特性を理解するためには、このアンチゴライト蛇紋岩の構造および上記の特性を明らかにすることが重要になる。 本研究課題ではこれまで、天然のアンチゴライト蛇紋岩の微細組織観察・分析と、天然のアンチゴライト蛇紋岩の脱水分解実験から、含水ウェッジマントルの構造と力学的および水理的な特性の解明を試みた。本年度は天然のアンチゴライト蛇紋岩を用いた脱水分解実験から得られた成果が査読付き国際誌に掲載された。 この実験では、かんらん岩の加水によって形成したアンチゴライト蛇紋岩がブルーサイトを伴う場合には、含水ウェッジマントルの比較的浅部で脱水分解することで、再びかんらん石を形成することが予想されるが、実験によってこれを再現した。また実験前後、つまりブルーサイトを伴うアンチゴライト蛇紋岩の脱水前後での、同一箇所の表面観察・分析を可能にし、反応前後の微細組織の直接比較を行った。 結果として、ブルーサイトを伴うアンチゴライト蛇紋岩の脱水によって形成されたかんらん石の組織や結晶方位、鉱物化学組成の特徴を報告し、これらの特徴が同様の反応を経験したウェッジマントル由来の天然の岩石でも見られることを明らかにした。特にブルーサイトの結晶軸選択配向(CPO)測定に初めて成功し、かんらん石との間にトポタキシーと呼ばれる結晶学的な方位関係があることを初めて発見・報告した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
【野外調査および試料採取】 これまでに国内の複数地域に対して野外調査を実施し、アンチゴライトの結晶方位の配列パターンを把握するのに十分な岩石試料を採取した。来年度、追加して野外調査を行い、詳細な野外地質情報を得ることで、比較的大きな空間スケールにおけるアンチゴライト蛇紋岩の構造についても調査する予定である。 【鉱物の結晶方位測定】 これまでに国内外の複数地域から採取された岩石試料の結晶方位測定を行い、これまで報告例のなかったブルーサイトを含め岩石試料表面の結晶軸の方向の詳細なマップ化に成功している。本研究課題の遂行に必要な採取岩石試料のほとんどに関して測定を完了している。 【アンチゴライトの結晶軸の配列パターン】 これまでに測定された岩石試料中のアンチゴライトの結晶軸の配列パターンについて解析が完了しており、特定の結晶軸の配列パターンについて形成メカニズムをまとめた。来年度、査読付き国際誌でのこれらの成果の公表を予定している。 【脱水分解実験】 ブルーサイトを含む蛇紋岩分布領域で温度上昇に伴う脱水分解過程とこれに関連した微細組織の変化を天然の蛇紋岩試料を用いて実験的に調査した成果を査読付き国際誌で公表した。来年度も引き続き実験的なアプローチからもウェッジマントルの岩石構造推定を進め、成果を査読付き国際誌へ投稿する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度公表した研究は、ウェッジマントルの条件下でのアンチゴライト+ブルーサイト組織の脱水分解反応によるかんらん石形成組織の微細観察や、その反応前後の同一表面の直接観察と分析による比較を行うことを初めて可能にした。 来年度も引き続き実験的な研究を継続し、アンチゴライト蛇紋岩の脱水分解時における構造変化と、力学的および水理的な特性の変化を明らかにする予定である。加えて、国内外の複数地域からの野外調査結果と天然の蛇紋岩試料を用いた観察・分析に基づいたアプローチも並行して行い、含水ウェッジマントルにおけるアンチゴライトの結晶軸の配列パターンとその形成機構を明らかにすることでウェッジマントルの構造推定を進める予定である。これらを踏まえ、ブルーサイトやアンチゴライトが沈み込み帯のレオロジーに与える影響についてまとめ、それらの成果の学会発表および査読付き国際誌への投稿を行う。
|