研究課題/領域番号 |
20K14648
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分19010:流体工学関連
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
吉永 司 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50824190)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 声帯 / 流体構造連成解析 / 2質点モデル / 剥離 / 空力音 / ベルヌーイの定理 / 人工声帯 / 数値流体解析 / 声道 / 3音響管モデル / 埋め込み境界法 / リード / 空力音響学 / 乱流音 / 音声 / 自励振動 |
研究開始時の研究の概要 |
声帯による音の発生は,気流と声帯の弾性力による自励振動として起こっており,数値解析において気流と構造変化,音発生の相互作用まで十分な精度で解析できている手法はほとんどない.本研究では,声帯音の詳細な発生メカニズムを明らかにするため,気流による声帯の振動と音の発生を同時に解析できる,流体―構造―音響連成解析手法の構築を行う.この時,高精度の有限差分法と埋め込み境界法を用い,得られた結果は実験による比較・検証を行うことで,十分な精度で解析できていることを確認する.また,3次元実形状モデルを医療画像より構築し,声帯の粘弾性特性が声質に与える影響等を調べ,発声障害等の生体医工学分野への応用を目指す.
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研究実績の概要 |
本年度は主に,2つの質点をバネとダンパーで接続した単純声帯モデルに対して,流体-構造-音響連成解析を行うことにより,提案手法の妥当性を検証した.声帯ひだの振動解析に関しては質点とバネに単純化することで計算効率を上げ,これまで種々の解析が行われてきた単純形状に対する流体解析を行うことにより,計算精度を検証しつつ,音まで十分な精度で解析できていることを確認しながら解析を進めた.気流解析の精度については,M5モデルと呼ばれる単純形状モデルに対する先行研究の表面圧力分布計測結果を用いて,剥離点まで表面圧力が十分な精度で計算できていることを確認した.その後,左右の声帯ひだの弾性率を変化させて左右非対称の振動が生まれた際に,3次元的な気流が,どの程度振動特性に影響を与えるのか調べた.この時,先行研究でよく用いられる1次元のベルヌーイの定理を用いたモデルと比較した.その結果,3次元気流解析と1次元モデルの結果はほとんど同じ傾向を示し,声帯の振動様式から発生音の声質まで,1次元気流モデルでも上気道の気流の圧縮性を考慮すれば十分な精度で解析できることがわかった.また,これらの結果は,声帯の振動様式に関して,気流の3次元性よりも声帯の生体組織をどのようにモデル化するのかが重要であることを示唆しており,今後は声帯ひだの複雑な形状や非線形的な変形様態に注力して解析を進めていく.得られた研究成果は2回の国際会議で発表し,米音響学会誌の学術論文として掲載された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度目標にしていた3次元の気流解析と1次元モデルとの比較及び評価が無事終わり,論文として出版することができた.当初は気流の3次元性により,声帯の左右非対称性がより強く表れると考えていたが,左右のひだの弾性率の比が1.6程度の差では,3次元および1次元解析の結果はほとんど同じとなり,1次元解析でも十分な精度で解析できていることが示せた.この結果は,極端な気流の影響が表れない領域では,声帯組織の変形特性が声帯の振動特性を予測する上で重要であることを示唆している.そのため,今後は声帯ひだ周りの靭帯や軟骨,筋線維組織に注力してモデル化を進めていく.また,3次元解析ではスーパーコンピュータを用いて1週間程度時間がかかるのに対し,1次元解析では一般的なPCを用いて数分で計算が終わるため,流体解析を実施したことの無い研究者でも解析が活用できる. これらの成果は,音声生成解析に関する議論が活発に行われている米音響学会及び声帯に関するシミュレーション研究が多く議論されるInternational Conference on Advances in Quantitative Laryngology, Voice and Speech Researchにて発表し,多くの研究者に認知してもらうことができた.また,共同研究先であるUCLAのZhang教授の研究室を訪問し,超弾性体を用いた声帯の非線形変形解析について,これまで実施されてきた手法を学び,来年度から進めていく方針について,より具体的なプランを立てた.
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今後の研究の推進方策 |
声帯ひだに関して,超弾性体を用いた有限要素解析を実施する.この際,これまでの先行研究で用いられてきた声帯の筋線維と靭帯を分けて解析するbody-coverモデルを参考にし,有限要素モデルを構築する.振動解析に関しては,固有値解析を応用したモード法を活用し,3次元気流解析とカップリングして高速に解析できるようにする.モード法では,特定の周波数までの振動モードを考慮し,予め固有値解析結果を蓄積し,その結果と流体力の時間変化のデータを組み合わせることで過渡応答解析を行う. また,共同研究先のZhang教授より声帯の筋線維構造を撮像した医療画像を提供してもらい,声帯の実形状を考慮した有限要素解析を実施する.そして,声の個人差まで考慮した精度で解析を行う.さらに,声帯ひだの直上にある仮声帯および喉頭蓋による狭窄を考慮して気流解析することで,それぞれの狭窄が音の発生にどの程度影響を及ぼすのか明らかにする.
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