研究課題/領域番号 |
20K14864
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分22060:土木環境システム関連
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研究機関 | 八戸工業高等専門学校 |
研究代表者 |
李 善太 八戸工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (60771962)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 薬剤耐性菌 / 大腸菌ファージ / 下水処理場 / ファージセラピー / 存在実態 / 抗生物質耐性大腸菌 / 制御方法 / ファージ / バクテリオファージ / 下水処理 / 制御手法 |
研究開始時の研究の概要 |
薬剤耐性菌が深刻な問題となっている中、薬剤耐性菌に感染するバクテリオファージ(以下、ファージ)を用いたファージセラピーが注目されている。しかし、薬剤耐性菌に感染するファージの存在実態については知見が少ない状況である。本研究では、様々な薬剤耐性菌に感染するファージを収集して薬剤耐性菌感染ファージのライブラリを作製し、これらから調製したファージカクテルを添加することで下水処理過程中に薬剤耐性菌の割合を減少させる。また、有効なファージはその種を特定することで、下水処理場だけでなく宿主である薬剤耐性菌が問題になっている、ヒト、動物、農業、食品および環境の各分野においても利用できることが期待される。
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研究実績の概要 |
本年度は、下水処理場へのファージを用いた薬剤耐性菌に対する制御手法の適用可能性について実際の処理過程を想定し、ファージの添加タイミング、水温条件について基礎的検討を行った。また、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy: TEM)を用いて、薬剤耐性菌に感染するファージの形態学的特徴を観察した。 ファージの添加タイミングの検討では、下水処理場流入直後(0分)、生物反応槽流入時(90分)、最終沈殿池流入時(410分)の各タイミングでファージを添加した場合における抗生物質耐性大腸菌の抑制効果を調べた。その結果、ファージを添加しなかったサンプルは、全ての培養時間(560分)後に培養前の濃度と比べて3-log程度増加していたのに対し、0分と90分にファージを添加した場合は、培養前の濃度と同程度であった。410分に添加した場合は、培養前の濃度と比べて2-log程度増加していた。このことから、下水処理場流入直後と生物反応槽流入時にファージを添加することで、抗生物質耐性大腸菌の増加を抑制できることが考えられた。 水温の検討では、夏季(28℃)と冬季(18℃)を想定してファージを添加した場合における抗生物質耐性大腸菌の除去効果を調べた。その結果、どの温度条件もファージを添加しなかった場合と比べて添加した方の割合が低下していたことから、18~28℃の温度条件においては抗生物質耐性大腸菌に感染し、除去できる可能性が示された。 TEMにより薬剤耐性菌に感染して有効に除去することのできたファージ5株を観察した結果、ファージ3株は長い尾部構造を有していることからCaudovirales目に、2株は尾部を持たずに球状の頭部のみを持っていることからMindivirales目に分類されるものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、①下水処理場における薬剤耐性菌に感染するファージの実態調査、②薬剤耐性菌感染ファージを用いた下水処理場での制御手法の検討、③薬剤耐性菌に感染するファージ種の特定を目的としている。初年度は、下水処理場における薬剤耐性菌とその薬剤耐性菌に感染するファージの存在実態を調査しており、その際に多剤耐性菌と複数のファージを単離し、凍結保存した。それらを用いて次年度は、下水処理場の生物処理過程においてファージを添加することによる薬剤耐性菌の除去効果について基礎的検討を実施し、除去効果を得たことから、下水処理場での制御手法としての利用可能性について確認ができた。今年度は、実際の下水処理場への適用可能性について、下水処理過程でのファージの添加タイミングや水温条件による効果を検討した。また、薬剤耐性菌に感染するファージ種を特定するため、形態学的特徴を明らかにしている。このことから、目的①~③に対して、着実に成果を得ており、研究は順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
薬剤耐性菌に感染するファージについて、宿主菌の起源(下水処理場の流入水、二次処理水、放流水、河川水など)や薬剤耐性数により検出されるファージの存在実態を明らかにする。また、下水処理場の試料のみならず河川や湖沼などの環境水に対しても同様の調査を継続する計画である。 下水処理場へのファージを用いた薬剤耐性菌に対する制御手法の適用可能性について、複数の多剤耐性大腸菌とその多剤耐性大腸菌に感染するファージを用いて、効果的に除去できるファージの添加濃度等の検討をさらに進める。 薬剤耐性大腸菌の除去効果が高かったファージ種の特定においては、TEMによる形態学的特徴の観察はできたものの、遺伝子情報による種の特定ができていないことから、次世代シーケンスにより全遺伝子配列解読を実施し、新たなファージ種なのか既存の種なのかをより詳細に検討する予定である。
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