研究課題
若手研究
固形がん細胞の低酸素応答を指標とした抗がん剤シーズの探索研究によって、低分子化合物IACS-010759が発見され、その直接の標的分子はミトコンドリアNADH-キノン酸化還元酵素(呼吸鎖複合体-I)であることが報告されている。ロテノンやピエリシジンに代表される典型的な複合体-I阻害剤は、正常細胞のエネルギー代謝も撹乱して顕著な細胞毒性を示すため、本酵素阻害剤が抗がん剤シーズに成り得ることは全く意外である。そこで本研究では、IACS-010759と既知阻害剤の作用機序の差異を酵素レベルで浮き彫りにし、正常細胞に対して毒性が軽減される理由を明らかにすることを目指す。
固形がん細胞の低酸素応答を指標とした抗がん剤シーズの探索により見出された低分子化合物IACS-010759(以下IACS)は、ミトコンドリア呼吸鎖のNADH-キノン酸化還元酵素(複合体-I)を標的とする。本研究ではIACSの詳細な作用機序を調べた。独自にIACSを合成し、ミトコンドリア複合体-Iに対する影響を調べた結果、既知複合体-I阻害剤とは異なり、IACSは複合体-Iの順反応よりも逆反応に対してより高い阻害活性を示すことがわかった。さらにIACSを鋳型とした光反応性プローブ分子を合成し、複合体-Iにおける標識部位を調べたところ、既知複合体-I阻害剤とは結合部位が異なることがわかった。
複合体-Iは電子伝達系の初発酵素として機能する重要な呼吸鎖酵素であり、基質の酸化還元反応に共役してATP合成(酸化的リン酸化)に必須のプロトン駆動力を形成する。複合体-I阻害剤としてロテノンやピエリシジンなどが知られているが、これら既知阻害剤は培養細胞レベルで高い抗腫瘍活性を示すものの、通常細胞に対しても顕著な毒性を示す。一方、IACSは複合体-I阻害剤であるにも関わらず腫瘍細胞選択的に細胞毒性を示すため、新しいタイプの阻害剤である可能性が高い。本化合物の作用機構を明らかにすることは、複合体-Iの基礎研究の進展に貢献するだけでなく、抗がん剤分子の設計戦略に資するところも大きい。
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