研究課題/領域番号 |
20K15546
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分39070:ランドスケープ科学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野澤 俊太郎 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任助教 (20814528)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2020年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 近世 / 佐渡 / 農村 / 景観 / 世界農業遺産 / 農文化 / 食文化 / 自給的農業 / 農業景観史 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、国連食糧農業機関によって世界農業遺産に登録された佐渡の農業景観と農文化を対象に、それらの過去と現在がどのようにつながっているかを明らかにするものである。17世紀末の土地利用形態をデジタル地図で再現するとともに,当時の焼畑農業と今日の自給的農業の関係を食文化等の観点から考察する。農業景観と農文化・食文化の相互作用の歴史を日常の中に再発見し、遺産としての農業景観を持続可能な農業生産の場として継承していくための戦略を考える。
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研究実績の概要 |
本研究は、近世期農村景観のデジタル地図による再現、並びに今日に至るまでの土地利用形態の通時的分析に主眼を置くものである。この史的空間分析は、小佐渡山地に位置する3つの隣接する集落(月布施、野浦、東強清水地区)を対象とする。本研究は、過去約3世紀の土地利用形態を分析可能にする単位として、田畑や森林等の社会文化的まとまりを反映する小字に着目している。初年度以来、デジタル化された小字復元図の作成、並びに江戸時代および今日の土地利用に係る各種データの小字単位による統合作業を進めてきた。 令和4(2022)年度は、以下に示す作業等を通じて、本研究を前進させた。 まず、地理情報システムに搭載可能な調査対象3地区全ての小字ポリゴン(以下、デジタル小字復元図とする)を完成させた。令和4(2022)年度は、当初の想定とは異なる方法を用いながら、3地区のうち未完であった1地区の復元図を作成した。併せて、令和3(2021)年度までにある程度仕上がっていた他2地区の復元図暫定版についても補正作業を行った。 デジタル小字復元図が完成したことにより、調査対象全地区の小字リストについても補正がなされた。この小字リスト完成版を基に、すでに翻刻が完了していた御検地水帳(江戸時代の検地記録)のデータを小字単位で再整理した。これにより、デジタル小字復元図を用いた史的空間分析のためのデータセット一式が整った。 他方、本研究の実施は、他の世界農業遺産地域等を対象に研究を進める様々なバックグラウンドを持つ研究者との交流を生み出した。それは、文化人類学、地域研究、歴史学、造園学、建築学等の研究者が参画するランドスケープ(景観)に係る異分野融合研究会の発足として結実した。これまでに、佐渡および他の世界農業遺産地域等における小規模農業の現況や景観形成の歴史等について情報共有がなされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調査対象3地区全てのデジタル小字復元図、並びに史的空間分析のためのデータセット一式が完成したという点において、令和4(2022)年度までの進捗状況は概ね順調であったと評することができる。 小字復元図の作成作業については、令和3(2021)年度までに3地区のうち2地区の復元図暫定版がある程度出来上がっていた。他方、残る1地区については、各種作業を進めていく中で、当初想定していた地押調査更生地図(明治中期の地籍図)を用いた方法では小字を完全に再現できないことが明らかになっていた。そこで、佐渡市役所による資料提供等の助力を得ながら、別の方法を用いて当該地区のデジタル小字復元図を完成させるに至った。同方法は、併せて他2地区の復元図暫定版の補正を可能にした。 昨年度同様に、デジタル小字復元図の作成作業においては、小字名称や位置関係等について地元の方々にご確認頂くプロセスを経た。併せて、農地の現況調査を行い、昨今の利用状況、土壌、地理・水理条件、耕作慣行等について地元の方々より情報提供を頂いた。これらの情報は今後の史的空間分析に活かされることになる。 これまで進めてきた各種データ作成作業は、原則として地押調査更生地図並びに昨今の農地情報等に記載の見られる小字をベースとしている。よって、デジタル小字復元図の完成は、自ずと御検地水帳に記載のある小字の同定、すなわち近世期から現在に至るまで通時的に土地利用形態を比較することができる小字の特定を可能にした。 以上のデータ作成作業と並行して、他の世界農業遺産地域等について研究を進める様々なバックグラウンドを持つ研究者と情報共有を進めた。同活動はランドスケープに係る異分野融合研究会の発足として結実しており、本課題完了後を見据えた研究の方向性に係る模索をはじめている。
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今後の研究の推進方策 |
近世期と今日の土地利用形態を巡る通時的分析を進めていく上で、何を比較対象とするのか、あるいはどのような側面に焦点を当てて比較するのかといった点を吟味する必要がある。それは、小字単位でデータ化および再整理された御検地水帳のうち、地理情報システム(本研究ではQGIS)を用いて具体的にどのような要素を可視化できるかといった問題と関係している。 このような可視化の方法および分析の視点については、これまで各種データ作成作業を進める中で、ある程度イメージを固めてきた。令和5(2023)年度は、そのイメージに基づき分析手法を組み立てながら、近世期農村景観の再現、並びに約3世紀前から今日に至るまでの通時的分析を進めていくことになる。 併せて、調査対象3地区における現地調査を継続的に実施し、地元の方々より同地区の地理的特徴、土地利用条件、土地利用の歴史、耕作慣行、農文化、食文化等に係る情報をご教示頂く予定である。このような情報は、分析の視点を設定する際に活用されるだけでなく、分析結果の考察においても参照されるものと見積もっている。 史的空間分析と並行して、引き続きランドスケープに係る異分野融合研究会に参画し、本課題完了後における研究の発展可能性について検討を進めていく予定である。同活動の一環として、佐渡の他地域あるいは佐渡以外の地域を訪問の上、農村景観、耕作慣行、農文化、食文化等に係る視察を行う見込みである。このような活動もまた、本課題が目指す史的空間分析に寄与するものと見積もっている。 以上の他、調査対象地区の小字復元図は期せずして地元の方々より好評を頂いていることから、その実務的な活用方法についても検討を行っていきたいと考えている。
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